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「佐藤さんのお家族ですか? 」
咲也が尋ねる。
「はい、そうです……、主人はどうなったのですか」
患者の妻は不安げな顔で患者の容態を咲也に聞く。彼は少し微笑みながら返事をする。
「ご主人はもう大丈夫ですよ。死亡する可能性は極めて低いですし、意識も数日以内には戻ると思います」
「……ありがとうございます」
患者の妻は泣きそうになりながら感謝の意を伝える。すると今度は子供たちが咲也に尋ねてきた。
「お父さんは? 」
「パパはもうだいじょうぶなの? 」
「お医者さんが助けたから、もう大丈夫だよ。心配しなくて良いからね」
子供たちの表情も咲也の話を聞いて、次第に明るくなった。
家族は患者の様子を見にその場を離れた。直後、咲也の前に朱美がやってきた。
「どうしたの? そんな顔して」
朱美が尋ねる。
「いや、目の前の命が一つ助かった」
そう答えた咲也の顔はとても嬉しそうだった。
「そう。よかったね」
朱美もそれに嬉しそうに返した。
「ねえ、この後上で話さない? 」
彼女が上を指差して提案する。
「良いけど、どうしたの? 」
二人はその後、屋上へと登った。咲也が話を始める。
「やっぱり良いな、助けることができるっていうのは」
「……そうね」
「何かあっただろ? 」
彼が朱美に尋ねる。彼女は沈んだ顔で話を切り出した。
「こっちの方でね、手術をさっきしたの。癌の切除手術で少し前から念入りに準備を重ねて、万全の態勢で臨んでいた。だけど、いざ始まると予想外のことに癌が転移していて、かなり状況が酷かった。一応、当初予定していた場所の癌は取り除けたけど、この先のことが心配になってしまって」
「そういうことか…… 」
二人はほぼ同時にため息をついた。少しの間が空いて咲也はすぐ近くの自販機に向かって缶コーヒーを二つ買って、戻ると朱美に一つ渡してから、缶を開けて口をつけた。そして、話を始めた。
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