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「今日は何事も無いと良いですね」
「そうだね。仕事は仕事だけど、本当は仕事がない方がいいに決まっている」
「そうですね」
咲也と坂上のやりとりが続く。そんな中で咲也は自分のデスクに今日の朝刊が置かれていたことに気がつく。その第一面を見ると、そこには改正魔術法の一部の項目案が否決されたという内容が大々的に取り上げられていた。
「坂上先生、これ! 」
咲也は慌てて坂上に記事を見せようと、新聞を掲げる。
「ああ……、それか。それならもう読んだよ」
「どういうことなんですか」
咲也が尋ねる。
「やっぱり、僕らが欲しがっていた物を世間様は許せなかったらしい。記事をよく読んでみろ」
咲也は坂上の言う通りに記事をよく読んだ。記事を要約すると、改正法案を決める上で、先端技術への倫理的な問題を考えない訳にはいかず、それを考えた時に様々な団体からの否定的な意見と、世論が抱いた恐怖感とが重なり大きな声となって、否決にせざる終えなかったということだった。
「そんな…… 」
記事を読み切った咲也は動揺した顔をして、新聞を落としてしまった。気がつくと周囲には坂上以外の同僚たちが出勤しており、咲也の様子を見ていた。
「……なんでだよ」
またも咲也がふと呟いた。それに対して同僚たちは何事かと思い声をかけようとしたが、彼の状況を見て何も言うことができなかった。
それから少し時間が経過した。あのあと、咲也は落ち着きを取り戻して、通常通りの業務をしていた。咲也が昼食のサンドウィッチを食べていると彼のデスクに一本の内線電話が入ってきた。
「はい。こちら救命救急センター」
『急患です。三十代男性で、自動車との接触で頭に打撲を受けて意識不明。至急対応を願います』
「わかりました、すぐ向かいます」
咲也は食べかけのサンドウィッチを置いて、直ぐに同僚たちを集めた。
「急患です! 来てください! 」
咲也たちは急いでエントランスへと向かう。到着すると丁度のところで患者を乗せた救急車が現れ、咲也たちは患者を引き取り、担架を押して全力で走り出した。
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