2024.05.30 お酒は二十歳から
「げほっ、ゴホッ!」
「……」
「ゔゔっ、うん、ゲホゲホ」
「……大丈夫?」
「だめ、喉が痛い。痰でる」
「だいぶ良くなったね。昨日は死ぬって言ってたから」
「絶対あなたが持ってきた風邪だよ。息子くんも娘ちゃんも喉やられてるって」
「そりゃ……そうかも」
ここ最近、毎朝五時ころに咳をしている嫁さんに起こされ、飴を持ってきたりタオルをレンジで蒸したりして渡したりしている。
何故か起きると咳は止まるので、さほど心配はしていないが多忙と肺のストレスが重なれば何が起きても不思議ではない。
季節の変わり目で体調を崩してる人は多いようで。自分も先週いきなり鼻水と涙が止まらなくなって3日ほど苦しんだ後だった。
目眩、鼻水、鼻詰まりにくしゃみ連発。だが熱はないし母の日商戦では休む訳にはいかなかった。
不景気で売れない。売れない理由を探しに仕事に向かいあうと精神的にも具合は悪くなる。
取引先も閉店や縮小していて売上が悪いのは運命というか自然のなせる技である。運命ってのは言い過ぎ?
それに逆らい足掻くべきが人間の本質だろうか。そういう世界観は生き甲斐があって良さげではあるが年には勝てない。
現実社会では儲からないブラック企業は自然淘汰され無くなるのが当然といわれる。誰も興味のない生存競争が熾烈を極めている。
野イチゴは遺伝子をつぎの世代に伝え繁栄するためにどうしただろうか。種子を美味しい果肉でくるみ、熟したことを色や香りで動物に知らせ排泄物と共に分布させた。
一方で動物のほうは美味い果実を選別した。数千年単位で美味いやつを選別すると、あらふしぎ。
品種改良と同じこと。野イチゴはみんなの好きな味に変化していった。
この野イチゴと人間の関係を生産販売会社と一般消費者と考えてみようか。
ただし消費者がメーカーを育てるという発想は、国民が政治家を育てるという理想に似ていて、成功した試しがない。
ふたつは切り離して両者にメリットある仕組みが必要である。はやい話が野イチゴは自らの意志で甘く熟しているわけでもなく、ツグミも野イチゴを栽培しようなど考えてはいないのだ。
では課題は何か。問題点はどこにあるのか。売れない問題は価格の高騰だけではない。
当然ながら進化の流れに乗るには熟した甘い食材を増やし、酸っぱい緑の硬い実は生産をやめるのが正しい選択だ。
無駄なものは排除して必要なものは切らさない、短期間で効率的に拡大する最善策である。会社も生物も、進化し生き残ることは外的な要因より自己分析が出来ているかどうかなんだろうな。
連休に息子高校と娘高校のサッカー対決があったので応援に行つった。熱い日差しのなかPKまでいく接戦で盛り上がる。
「受験あるのに、まだサッカーやるんだってさ」と嫁さんがいった。「今日負けたら引退するかもって言ってたのにね」
「うん、負けたら辞めるって難しいよね。息子くんらしい。受験生の三年になったらすぐ引退なんてしなくても受験は間に合うよ」
「思い出はいましか作れないもんね」
そして今月、娘ちゃん二十歳になってしまいました。家族四人で予約したイタリアンに行って乾杯してきました。
「どう」俺はスパークリングワインを一口飲んで娘ちゃんに聞いた。「美味しい?」
「げっ……苦いわ」
「「プハハハハハ!!」」
子供たちの将来の話を聞いていたら、すごく幸せで嬉しくて、どうじに何ともいえず寂しいというか切ない気分で腹がいっぱいになった。
自己分析とかデータなんて格好のいい言い方しなくても俺は知っていた。〈大切な記憶〉や〈思い出〉がすべてなんだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます