2023.04.09 雀の戸締まりみた?

 カッコいいバンドの友達は何故みんな悪魔なんだろう。今は見飽きて天使も悪魔も魅力的とはいえなくなった。


 そんな冷めた時代にニートっぽいメンタル弱めな男子が登場するアニメが好きだった。ガンダムやエヴァンゲリオンの影響は大きい。


 神々の戦いや伝説の英雄、地獄の猛者やアンチヒーローを見てきた我々は、何か勘違いしたカッコよさに酔いしれていた。


「今日は天気悪いから塾やすもうかな」と悩む息子くんを見た。バンプオブチキンのカルマがかかっていた。「迷うわぁ~」


「どうやら……」俺は洗濯物を取り込みながら息子の肩をつかんだ。「答えはゼロとイチの間だな。雨の降りだした今、自習にわざわざ行く必要があるか?」


「今、今というほうき星って何だろうね」

「もはやカッコ良すぎて台詞が言いたいだけじゃないかな」


 かしこみかしこみ。そんなイケてる台詞に爆笑しながらも、アニメ映画『雀の戸締まり』を見ていた。一番ウケたのは娘ちゃんの衝撃的な発言だ。


 扉の前にたつ雀ちゃんに叔母さんは「どこに行こうっていうの!?」と聞く。どこでもドアじゃあるまいし、壊れたドアを開けながら振りかえる雀の先に、異世界が見える。


 映画を見ていた俺たちには、そこが常世っていう都合のいい空間だと解るが、叔母さんと芹沢くんからしたら、初見の未知なる世界だ。


 雀は満面の笑みを浮かべ「好きな人のところ!!」と叫んで、ドアに飛び込むという旅立ちのシーンである。


 なんと娘ちゃんは爆笑しながら、この感動的な画面を指して言った。「そんな女はいねーよ! どんだけ童貞なんよ新海誠は」


「「あははははははは」」


 念のためにいうと新海誠は童貞ではないし娘ちゃんもアバズレではない。この場合の『童貞』というのは、一般的な意味ではない。


 バンプオブチキンの歌詞を愛してやまない我々は、こうしたコロナ禍と物価高で廃絶したかに思えた特許的な価値観が大好物である。


 新海誠の好きなタイプの女が凝縮されたかのような存在は、たしかに居ない。だが我々の心の中にだけ居ればいいじゃないか。


 そんな理想のために何時間も何百人もが捧げた何か。そんな真っ直ぐで曇りなき魂こそを我々は『童貞』思想と呼ぶのだ。


 賛否両論ある作品というのも大好きだ。何だかんだ言って楽しめてしまうから。


「だとしても」俺の童貞思想には一抹の不安がよぎった。涙を拭きながら娘ちゃんに聞いた。「こんだけ綺麗な映像で、お金も労力もかけてるのに、失敗したらと思うと怖くなるよね?」


「大抵は許されるよ。パパの会社で取引停止とか大きい失敗したひとがもし、童貞だったら仕方ないって思うでしょ。会社に莫大な損失を与えた場合でもね」


「ああ、仕方ない。あいつ童貞だから(笑)」






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