2024.02.19 鏡の孤城

 七人の登校拒否児が鏡の孤城に集まるようになって数ヶ月。主人公である〈こころ〉に対して去り際「ファイクだと思う」と語る同い年の青年〈リオン〉。


「いまなんつった?」

「ちょっと戻して聞き直そっか」


 俺は娘の指示に従いテレリモを握って30秒ほど前に戻した。映画館やリアルタイムで見ていたら出来ないことだが2人で映画を見るときは決まって、一時停止や巻き戻しをして問題を浮き彫りにするのだ。


「ファイクだと思う」(一時停止)

「……」

「ファイクって何だ? 意味深にいうから3回見ちゃったやん」

「フェイクをイキって言ってるだけじゃない」

「ぎゃははははは!!」

「だとしても意味がわからんよな!」


「何がフェイクなんだよ。狼面つけてる案内人だって、この詳しく描かれていない城の内部だって、そもそも全部フィクションだよね」

「それも含めて……ファイクだと思う」

「ぶはははははは!!」


 アニメ〈鏡の孤城〉は本屋大賞の辻村深月原作のアニメ映画である。万人向けで伏線は見た瞬間にわかるため、冒頭から2倍速で見れる親切設計だ。


 声優は有名人・登場キャラクターは癖も個性も無いという最強の組み合わせ。名前を覚えるより先に「名探偵コナンがいるから解決するはず」と一笑できる仕掛けまである。


 自由に孤城を探索して〈どんな夢も叶うという鍵〉を探すのが7人に課せられたミッションだった。一つしか無い鍵で使用者以外の城の記憶は消える。何故か孤城には閉じ込められているわけではないので話にスピード感が無い。各々おのおの、自宅の部屋の鏡から自由に出入りできるのである。


 ただ毎日(9時から)17時までには退城しないと文字通り狼に喰われるよ〜というリスクがあると案内人である狼仮面の少女がいった。


 何にでもルールや対価があるのだっつーようなことを言っていたような。リアル世界のサポート先生と三年の女子にローズティ共通の分かりやすい伏線。


 狼と七匹の羊を連想させないためか、仮面少女は子供たちを〈赤ずきんちゃん〉と呼びミスリードを誘う手口。


 だが映画ドラえもんのような城で遊びながら仲良くなるエピソードなどはない。


「登城拒否したら積むんじゃね?」

「登校拒否児の集まりだからね。こいつらはドラえもんの〈どこでもドア〉より〈どこにも行かないドア〉の方を選ぶでしょ」


 案の定、こころが城に行かずに一月。何とか数ヶ月かけて気の許せる友だち位になる。だれでも多少隔離した少人数制のクラスなら大丈夫というメッセージであろうか。


 鍵は見つからず、あるのはベッドのしたやオーブン内の×印が6つ。リアル世界でこころが羊が狼から隠れた場所だと理解、一時停止。


「赤ずきんどこ行った?」

「出てこないんじゃね」

「ファイクってことかっ!」

「……あはははははは!!」


「ちょっと待ってパパ、残り10分だよ。ストーリーにはドキドキしないけど、この状況から伏線全回収してキャラ掘り下げ入れるのかなりハラハラしてきた」

「ま、間に合うのか。心臓に悪いぜ」


 六人は狼に喰われ鏡は割られ、誰もいない孤城。生き残った羊の絵本を思いだし古時計に隠し部屋を見つける。


 何故か出てきた階段が、何故か消えていくので走る〈こころ〉。みんなが喰われたであろう×印から、六人の記憶が流れ込む。


「……」

 ボロボロになった一人目の男の子の机。バカアホシネと彫られた姿は一目で凄惨な虐めを物語る。


「男の子と女の子の虐めかたが一緒なんよ。机に彫刻刀で書きまくるって、大変な量を彫らされてる美術部オタが虐めにあってない?」

「卒業制作の可能性もあるな」


「……」

 二人目の男の子。

「姉が死んだのにリオンは楽しそうね? とか言う親は最低だけど、実際まえむきにサッカーやってる姿がないんよ。作者はサッカーやったことないのかね」


「……」

 女の子はピアノのレッスンを続けるが落選して泣いていた。悲しげな母親。

「作者さ、ピアノも弾いたことないね」

「虐められたこと無いのばれた?」


「……」

 ローズティを持ってきた女の子。

「半世紀タイムループだとしたら、もっと早く気づくし、洒落た茶葉と魔法瓶があの昭和の和室から持ち出されたとは思えないわ」


「……」

「性加害なら男の子と話せないとか、立ち直って名字変わるまでの道のりに触れないと駄目じゃない?」

「そこが一番見たいよな。伏線もないのに衝撃的なシーンいきなり入れられたら、そりゃトラウマにもなるよな」


「……」

 鍵が手にはいり、元通りにしてと泣く〈こころ〉に皆が駆け寄る感動的シーン。記憶を失うが、皆は現実世界へと帰っていく。


「記憶残ってるやーん」

「リオンだけ姉と話をして恩赦のはずが先生まで記憶が残っている感じ。こうしたの分かりやすくするためだべさ」


「……」

「でも六歳位まで一緒だった狼面した姉とドールハウスの城に見覚えあったら、会った瞬間に分かるはずだよね」

「忘れて楽しくサッカーやっとったから」


「なんだかんだいって、文句とかあら探ししながらパパと観る映画は楽しかったね」

「娘ちゃんとなら三部作位の内容作れるな」


 言葉は悪いし、好きなだけ批判もするが結局は大変たのしく拝見していた我ら。中高生向けだとしたら特に文句はないのだ。


 娘が成長したと感じた。立ち直る姿は必要なのだ。例え失う物が多くても、希望を見つけることが。そんなシーンが無ければ誰も救われないし勇気も与えない。


 なんと深いメッセージの込められた作品だろうか。ファイクなのだろうか。また見ようとは思わないけど(笑)。



 

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