2024.01.22 年始は大富豪
「やったー」カードゲームで勝どきをあげながら背中をそる娘ちゃん。喜びを断ち切るように背後の椅子にゴンと頭をぶつけた。
「いた~いっ!!」
「「ぎゃははははは」」
年始に嫁さんの実家を訪れた後、義理妹夫婦の家に新年の挨拶に顔をだした。嫁さんの妹と旦那はどちらも再婚で家は新築だ。
建築関係の旦那だけあってテーブルにカウンターがあり、居間で盛り上がっている子供たちを見れる、なんて綺麗なお部屋でしょうか。
夢はラーメン屋だったという旦那は前日から仕込んでいたラーメンをご馳走してくれた。たらふく実家ですき焼きを食べた後だったが、みんなで少しずつ食べては「ウマイ!」とか「だしがすごい!」と褒め称えた。
小学四年と高校一年の息子が年末から泊まりに来ているとのことだった。うちの高二の息子と大学一年の娘、義理妹が五人でトランプをしている。
嫁さんの妹が、俺たちに来て欲しかったのは彼の息子たちと盛り上がって仲良くなりたかったのかもしれないと察する。
テレビでは能登の地震情報が流れていた。不景気や吉本や政治の騒動でどこもかしこも揺れているような不吉なニュースばかりだ。
「全員参加でトランプやろうよ!」と娘ちゃんがこちらをみあげた。そんなムードを変えるような笑顔を向けて。
嫁さんと妹の旦那は「いや、9人は多すぎるし子供たちだけでやりなよ」と言ってお茶を濁していたが、俺だけは違った。
「たかがゲームだと思って安心してるみたいだけど誰がいちばん馬鹿か、決着を着けることになってしまうよ。大丈夫なの?」
「「……なっ!」」
「我々、大人が参加したらそういう話になってしまうけど、ボコボコにされて泣いても知らないよ。一回きりで泣きの一回とか無いしね」
「「……ゲフッ!!」」
引き下がれなくなった子供たちは顔を見合せて、意を決した。勝負は大富豪だ。嫁さんを除く八人にカードが配られる。
2とジョーカーの入った悪くない手札だった。大富豪やダウト、ババ抜きは何より経験がモノをいう。やってきた回数で勝ち筋のルートも増えていくからだ。
そこで息子くんが不適に笑う。「そんなこと言って大丈夫かな。俺は修学旅行で一睡もしないで大富豪やってきたんだよ。あらゆるローカル・ルールも知ってるし、移動中はスマホ使って大富豪オンラインをやり続けてクラスで勝ち抜いてきた男だからね」
「お前何しに修学旅行に行ったんだ?」
「「どっ(笑)」」
ゲームは息子が勝ち、従兄弟(高一)が勝ち、俺、と上がっていく。俺は甥っ子と勝利の握手をかわした。義理妹があがると案の定、娘ちゃんと小学生くんの真剣勝負になった。
経験不足の小学生が負けるのは仕方ないことだった。だがビリツーの娘ちゃんは「もう一度お願いします」と言って、彼と頭を下げた。
結局五回戦までやって、俺が抜けて途中参加した嫁さんがビリになったタイミングで終わりになった。「ルール知らないし、カードが悪すぎたから」と笑いながら言い訳する嫁さん。
変な家族。はしゃいで頭をぶつけて、負けず嫌いで、仲良くしてるかと思えば「まったく分かってないな。お姉ちゃんの手札だったら一位になれたのに」と足を引っ張りあうような罵倒をはじめる。
「最後だけどさ」俺は帰りの車内で呟いた。「嫁さんが負けてくれて良かったよ。まさかワザとじゃないだろうけど」
「ああ、手札が悪すぎたからね」
「小学生の彼は、さいしょ恥ずかしがってて可愛かったね」と娘ちゃんがいう。「ラーメン屋になりたかったのに建築関係の仕事か。パパの夢はなんだっけ。書いてもいない小説家?」
「金持ちにも、有名人にもなれないのが寂しいこともあるけどさ、夢はコロコロ変わっていくもんだよ」
「ふうん。今は何なん?」
いまは家族を幸せにする男だろうな。いつかナレるはず、いやもうなってるかな? ……なんて言おうと振り向いた。
「もう寝てるのか。慣れない親戚付き合いで疲れたんだな。あっちも、いい思い出になったかな。それか馬鹿な家族だって思われたかな」
「特にあんたがね」と嫁さんは笑った。
世界は救えないだろうけど身近な人々を笑顔にするくらい、俺にも出来るような気がした。皆様にとって良い年になりますように。
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