2023.05.18 明日に向かって

 無言でLINEグループを抜けた友人もかつて同じことを言っていた。方向性の違い。無料のオンラインゲームやLINEにそんなものがあるのだろうか。


 バンドなら解散の危機だが、遊びや暇潰しや連絡ツールにも方向性があるのか。五人程度だが集まってくれたのは有難かった。


 全員が彼女の脱退をスルーして、一人だけザワザワするのは避けたい状況だった。突然の別れ、チームの行方、遊び方の違いという課題だけが残されるのもキツすぎる。


 昭和なら年長者が「人の繋がりはそう簡単に切れるものじゃねぇだろ、馬鹿やろう!」と一発殴る場面ではないだろうか。


 だが情報化時代では、繋がりはさほど重要ではなくなってしまった。寂しさを埋めるグループやチームはいくらでも変わりがあるから。


『みんなセッちゃんを必要だと思ってるし、少し落ち着いてから戻ってもいいんだよ』


『……うん』雨の降る瓦礫の街でメンバーに囲まれて立ち尽くす彼女はいった。『その話は、もうやめましょうね』

 

 マメさんのチーム〈進化クロマニヨンズ〉のメンバーは増え続け毎日のように見かけるようになっていた。


 ブロックされていないメンバーを通せばコンタクトをとることも出来るかもしれない。辞める要因に〈はるか〉とあのチームを見かけることが苦痛なのは間違いない。


 あの人たちにブロックされているという現実が、意味は無くとも気持ちをネガティブな方へ引っ張っていくのだ。


 ブロックする側がむしろブロックされる側よりタチが悪い気さえする。お前はじゃない、こっちの人数のほうが多いんだからな。みんなお前が嫌いなんだよ……なんてふうに変換されてしまうのだろう。


 チーム名を変えて、設定をチーム名の非表示にすれば済むと思っていた。残ったメンバーは無理にでも盛り上げようとしていた。


 それが彼女にとって裏目に出たのだ。疎外感と劣等感がうまれ、何もかもリセットしたいという感情が芽生える。


『お話しましょ、普通に。新しい職業やってみた? 結構おくが深いよ』


『火力があって他の職業がいらなくなりそうなレベルだよな。いまレベルあげてる』

『アクションが難しいけど慣れるかな?』


『ボタン配置とか変えれば、技が繋げやすいから簡単になるよ』

『やってみたけどヒロさんとプロ姉はすぐに無理だって挫折してたよね』

『あはははは。確かに』


 誰ともなくゲーム談義がはじまる。そういうところはチームらしくて良いものだ。俺や一部のメンバーはあまりゲームやアクションに拘りがない。後ろで構えてるだけだけだから。


『動物はコンプレックスを感じないらしいよ。あの猿、俺より木登り巧いじゃないかとか、こいつ俺より首が長くて餌食い放題じゃんとか考えないんだよ』


『ぷっ』プロ姉さんは笑っていた。『人間だから挫折するって意味なら、慰めにならないw』


『あはははは』


 元々人間は孤独で寂しい生き物だ。寂しさを埋められれば、ゲームだろうが地元の野球チームだろうが何だって構わない。


 俺は少し傲慢になって無料のネットゲームばかりに時間を費やし、家族との時間を削っていた気がした。


『最後にクエスト行きませんか?』

『いいね!』『賛成』

『迷宮行きましょうよ』


 彼女がチームを去るのは残念だが、タスクをこなす為や遊び方に降り回されては駄目だ。ゲーム談義したい人もいれば、猿の考えないことを話したい人がいたっていい。


『違うぞ、若者!』俺は言った。『俺たちが向かうのは地下の迷宮なんかじゃないんだ』


『……』『……』

『……』『?』


『いいか、俺たちが向かうのは明日だ。明日に向かって走るんだ!!』


『お、おーっ!』『www』

『分かりました、先生!!』


 結局、昭和な勢いで乗りきった俺だった。まだはっきりしないことは沢山あるが、時が解決するように思えた。


 残念なことばかりでもない。この件で残ったメンバーは礼儀正しくて優しさがあり、信じたものを大切にしようと前向きだった。


 しばらくは気楽に遊ぶつもりだ。チームがどうなるかは分からないが、とにかく明日に向かって走るんだろうな……と思った(笑)。






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