2023.04.30 全体会議
『初めましての人もいるかもしれません。いま仮にリーダーをやってるヒロです』
『俺から話をしたほうがいいみたいですね。みなさん、元リーダーのマメです』
円形劇場に丸く座る団員に、マメさんはチームメンバーが何故辞めていったのか語りはじめた。リーダーに対して副団長のピータさんから強烈な進言が何度もあったこと。
マメさんの考えたルールは『最低限のルールを守って、それ以外は全て自由』というものだった。たったそれだけの文面から最低限のルールが何かと問いかけられ挨拶の話を持ち出され、責められたそうだ。
何も変わらないチームだと知った数人とピータさんは脱退。しかし辞めたはずの彼とレナさんが、このチームの新人〈ちいゴリ〉と会っていたことが発覚する。
それを知っていて黙っていたマネージャーにキレたことで更なる被害が出たこと。フレかチームか選べと迫ったことを話した。
もう精神的にリーダーを続けることが出来なくなった。チームの顔である彼女を信じられず呼びつけ尋問してしまったのだから――。
『全部、俺が招いたことだと思ってます。みんなには申し訳ないですが、チームを抜けて他のサーバーへ移ろうと思っています』
『精神的に辛かったなら、みんなに相談すべきだったんじゃない?』誰かがいった。『あのピータさんと二人で話し合うことでもなかったんやないかな』
『みんなに聞かせられるレベルじゃなかったんです。俺はチームを辞めますけど、皆さんにお願いしたいことがあります』
『……』
『まずリーダーを任せたヒロさんには、まったく貧乏くじ引かせてしまったようで申し訳ないんですが、後のことをお願いしました』
『は、はい』一時的にって言ってくれないと困るんだけど(汗)。とは、とてもじゃないが今は言えなそうだった。
『みなが支えてくれると安心です。今回みたいなケースも話し合いで済んだかもしれません』
『もちろんです』
『わかります』
『あとひとつ。セッちゃんがチームに戻ったら、快く迎えて貰えませんか?』
『了解しました』『問題ないです』
『反対の人いますか』『いないんじゃない』
『大丈夫です』『賛成です』
『ありがとうございます。では俺は明後日のメンテナンス後にサーバーを移動する申請を出してきます。チームからは離れますが、皆さんとの出会いはとても楽しかったです』
『私たちも楽しかったです』
『精神的にボロボロだったなら、ゆっくり続けるのがいいかもです』『お世話になりました』
『別のサーバーでも頑張ってください』
『皆さんさようなら』
『……』
彼が画面から消えると劇場の円形ホールには静寂だけが残った。俺の議題はチームの今後とサティの考えたルールの話だ。
『みなさん、そうした訳で俺から簡単なお願いがあります。ルールってほどじゃないんですけど、俺の支配下となって忠誠を誓って欲しいと思います』
『……』
『今のは冗談です』
『あはは』『www』『草w』
『お願いのひとつは挨拶です。俺もくだらないって思ってた口なんですけど、チームの雰囲気作りには大切なことだって思いました』
『分かりました』『オッケーです』
『もちろん』『了解』『オッケー』
『まずはゲーム外のことです。無理にプライベートを聞いたり、時間を強制したりはやめてください。現実生活を探ったり、恋人が欲しいなら他のアプリでやってください。これは年齢制限ないゲームなんで、当たり前ですけどね』
『はい』『もちろんです』『はい』
『了解です』『分かりました』
『次はゲーム内のことです。俺をみて装備を揃えろとかタスクをこなせとか、ゲームのやり方について遊び方を強要しようなんて人は居ないでしょうけど、外と同じで何かを強要するのもやめましょう』
『www』『了解』『オッケーです』
『簡単にしちゃいましたが、基本を一緒に考えてくれたのは〈サティ〉です。拍手してください』
『パチパチパチパチパチパチパチパチ』
『押し付けのない認めあえるチームにしたいっていってくれたのは〈ジッド〉です』
『パチパチパチパチパチパチパチパチ』
『チーム名も変えます。辞めたかたで悪評書いてる人がいますので、ご理解ください。一緒にいま〈プロ姉〉さんが考えてくれてます。案はこんな感じです』
『パチパチパチパチパチパチパチパチ』
『うおーっ! 忠誠を誓うぜ!』
『なんか盛上がったな』
『残ったメンバーで、いいチームにしよう』
ストーカー行為には触れなかった。何人かのメンバーはそれも理解して聞いていた。マメさんとは早朝に打ち合わせていたとおりだ。
『……みんな、ありがとう。これで良かったんだよね。セッちゃん』
〈少し休み休み続く〉
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