2023.04.29 チームを去る者
『全員でいま十人ですね。集まってくれて有り難うございます』
半裸で筋肉を剥き出しにしたヤンキー風のいかついキャラや、美少女騎士、獣人もいれば警官姿のファッションポリスもいる。
カオスな集団が円形の劇場中央を囲むように集まりテンションの高めなキャラがパントマイムのようなモーションやダンスのモーションを使って盛り上げている。
『なんかチームで集まるの初めてじゃないですか、楽しいですね』
『はじめましてですね。宜しくお願い致します。インする時間帯が違うんですね』
集まったチームメンバーたちの中にセッちゃんは居ない。何日か前に彼女はチームに戻ってきた。そのとき、マメさん不在の状況で俺とヤンキー風キャラ〈ジッド〉さんにだけ、彼のストーカー行為を打ち明けたのだった。
二人だけのチャットで『可愛いね』や『好きだよ』といわれ続けてきたこと。返事や、どう思うかしつこく迫らてきたこと。
チームのメンバーには気付かれないよう、無理に明るく振る舞い、盛り上げ役の俺のようなタイプを見つけ誘っていたのだという。
ある意味でゲーム性が違うベクトルの俺を受け入れた背景には納得がいった。
退団中のマメさんから彼女へのメールを読み上げてもらった。
君を傷つけて本当に申し訳ないと思っている。すべては俺の責任だから、君はチームへ戻って欲しい。俺は君にあって直接あやまりたいだけだ。だから他のサーバーに移ってもずっと君を探し続けるだろう。いつかどこかで会える日を夢見てる。
彼女はリーダーのマメさんがチームに戻るタイミングで他のサーバーに移るつもりだ。俺たちにお別れをいう為に戻ったといっていた。
『チームのメンバーは大好き。でも怖くて、もうマメさんとは会いたくないから仕方ないよ』
『あれからチームに顔出してないんだよ、マメさん。もしかしたら全体会議にも来ないんじゃないかな。脱退した〈はるか〉って人と遊んでるみたいだけど』
『うん、知ってる。チーム以外の人とは遊ぶなって私には言ったくせに。めちゃくちゃだよ』
『なに考えてるんだ!』ジッドはイラついていた。『チームの揉め事には全部に奴がからんでる。はるかっていえば、ゴスロリの清楚なやつだろ。女なら誰でもいいんじゃないか?』
ジッドさんは熱く『まじで許せねぇな』と愚痴りながらも冷静に、マメさんが辞めるなら筋を通して、チームメンバーに話をしてもらわないとならないと言った。
嫌いなタイプではないのだが、彼が盛上がれば盛上がるほどリーダーをすぐにでも辞めたいですとは言えない雰囲気になる(笑)。
後日、マメさんがチームに復帰した日に今度はセッちゃんが居なくなる。最後の挨拶だという彼女は泣いているように思えた。
『ヒロさんは良い人。すごい優しくしてくれたし、チームを盛り上げてくれたよね。本当に寂しいけど、お別れです』
『そんなこと初めていわれたよ』
『戦闘では間抜けだけど』
『そっちは耳タコ』
『あはは』
俺にとってはセッちゃんは何なんだろうと考えた。一番に誘ってくれたし、冗談に突っ込みをいれてくれたし、笑ってくれた。
はじめゲームのキャラは得たいの知れない不気味な存在だった。マネキンみたいな不気味な作り物の顔。テレビから出てくる貞子と腰を抜かす真田広之みたいな関係だった。
違和感が薄くなったころ、そのキャラとの関係はETとエリオット少年くらいにはなっていたかもしれない。
いまは、彼女はシックスセンスに出てくる少年で、俺がブルース・ウィリスになっていたように感じた。
彼女にだけ怖いものが見えていて、俺はゴーストみたいな存在だ。初期デザインの服でイベントでばらまかれた後、投げ売りされていたライフルをずっと大切にしてる弱者だ。
あの映画のラストシーンが衝撃的だと思うなら、そいつはだいぶ鈍いと思う。でも少年とブルースウィリスの別れは良かった。
『あのさ』俺は映画のシーンを思い出して彼女にいった。『いつもみたいに、何でもないように別れよう。悲しくならないように。また明日も、明後日も会うみたいに……あら、なんか涙でてきた』
『わたしは、ずっと泣いてた。今も』
『…………』
『……』
『…』
マメさんと俺の前にチームメンバーがぞろぞろと集まっていた。サティやジッドもこちらを見ている。
セッちゃんの姿はない。だがサブキャラを作って遠く離れた場所でチームチャットをみていることを、俺だけが知っていた。
『ではチームの全体会議をはじめます。まあ、皆さんそこらへんに座ってください』
〈もう少し続く(笑)〉
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