2023.04.27 闇に病む世界
深夜の公園。マネキンみたいな顔の女の子が宙をみながら一人でベンチに座っている。ボタニカルだがエナメルのような光沢あるタンクトップにメカニカルでタクティカルなブーツを履いている。
『何してるの?』同じような何かニカルな服装をした男が寄りつき、ささやく。
『休憩中です』
『一緒に遊ばない? きみ可愛いね』
『間に合ってます、バイバイ』
一筋の光を残したまま、女の子は忽然と姿を消し、次の瞬間には広大な月の砂漠に足をおろしていた。
※
「こわっ、最近パパがやってるゲームってやばいね」と娘は揚げ茄子をほうばりながらいった。「中身が分からないのに、おっさんかもしれないのに、キャラみてナンパしてくるとかあるの?」
「あるらしいんだよ、しょっちゅう。マネージャーのセッちゃんがいってたんだけどね」
「いつからそんなにキモくなったの?」
「……パパなんて、まだまだだよ。話はそんなもんじゃない。ゲーム内で告白とかもあるんだってさ。おっさんどうしかもしらんのに」
「はあ、嘘でしょ」娘は呆れた顔で箸をとめた。「顔も分かんないのに、中身がおっさんかもしれないのに、好きですとかいうの?」
「何回おっさんいうんだよ(笑)。付き合ってくださいとかね……知り合って結婚する人もいるくらいだから、無くもないんだろうけど、想像を絶する愚かな行為といわざるえない。娘ちゃんも、帰りが遅くなるときとか、大学でも気をつけないとね」
「女子大だから心配ないけどね。そんで付き合いますってなったら実際に会って顔みて、お前じゃないって殴りあうの?」
「あははは、始まりから終わりが最速の恋愛だな。だけど会わずにゲーム内だけの彼氏と彼女とかがあるんだってさ。知らんけど」
「はあ……信じらんない世界。で、いつからそんなにキモくなったの」
「ごほっ、げほっ、そんなことより新しい大学で友だちできたの?」
「五十人できたよ。高校よりすごく楽しい。多分レベルが同じような人たちが集まってるから、変なスクールカーストとか、国語力が足りなくておきる誤解みたいのもないんだよ」
「受験を乗り越えた有志でお互いにリスペクトがあるから、かもね」
「会話が普通にあうの。言葉にも理解力が必要だから。本当に頭も性格もいい人ばっかりなんだよね。もはや全員ともだち」
「高校じゃ敵だらけだったのに。あんたリーダー向きだな(笑)」
※
あの日、リーダーのマメさんは精神的にボロボロだといって、一時的にだがリーダーを俺に任せたいといった。
『戻ってくるんだよね?』
『いや、まだわからない。でも俺が居なくなればセッちゃんがチームに戻るだろうから、俺はすぐにでもチームを抜けようと思う』
『まずは、セッちゃんが戻れるようにすることが最優先だってことだね』
『うん。これ以上、彼女を傷つけたくないし、彼女抜きなら、このチームはありえない』
『そういう考えなら構わないけど。一時的にってことは、後からチームのメンバーには自分から説明してくれるんだろうね』
『……うん』
そしてリーダーとマネージャーを同時に失ったチームを俺が任されることになった。案の定1日と待たずにセッちゃんは俺の前に現れる。
コンクリートに囲まれた廃墟のような街でフレンド登録から彼女は合流してきた。説得のかいはあった。俺にピータを切ってチームに戻ってくれると約束してくれた。
そのとき、雑談から聞いた話が〈ナンパ〉や〈告白〉のことだった。俺は彼女の本心をまだ知らなかった。
ずっとマメさんに『好きだ』とか『可愛いね』といわれ続け、それを流し続けていたこと。『これだけ言われても何とも思わないのかよ!』と迫られていたこと。
そしてチームから抜けてサーバーを変えたとしても、マメさんはゲームをやっている限りセッちゃんを必ず探しだし追うといったことを。
リーダーがピータを怖がっている以上に、セッちゃんはリーダーマメさんを恐れていた。
〈まだまだ続く(笑)〉
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