2023.04.26 ネトゲのチーム事情
冗談はうまいほうです。自分で爆笑しながらコメントをうったり、最後尾で息巻いたり応援したりしていました(笑)。
カクヨムで鍛えたキーボードも速いしね。誤字脱字はごめんなさいってことで。
仲間が攻撃を外したら、指摘したりして笑いをとったりしました。大丈夫、実は外したのは彼もです、なんていってまた笑いにしました。
ちゃんと戦えよという人が居ないのは、皆がベテランで戦闘力もしっかりしていたからでしょうね。俺以外(笑)
いつの間にか、後ろから「敵のボスを倒すぞ!」とか「フレー、フレー、みんな!」と指示を出す応援団長みたいな役になってました。
ボタンを押しっぱなしでライフル構えてるだけで、他にやることもないですからね。実力がなくても、こうやって背後につけていれば経験値やアイテムがキチンと入ってきます。
そんな楽しい暇潰しゲームでしたが、ある日まとめて数人のチームメイトが離脱するという事件が起きたのです。
最低限のルールを守れない奴がいる。そういって辞めたのは副団長ピータでした。以前は他のチームのリーダーをやっていたらしく、リーダーのマメさんに食ってかかったらしいです。
喧嘩なのか内容は分かりませんが、グループチャットで話せるレベルの言い合いではなかったそうです。マウントの取り合い、犬猿の仲ですね。
そのルールとは「挨拶」でした(笑)。ログインとログアウト時に「こんにちは」「お疲れ様」とチームチャットに入れるのが常識だそうです。
俺は無言でゲームに入り、誰かが「こんにちは」というと始まるBOOK・OFFばりの挨拶に紛れて挨拶をするスタイルでした。
まさか俺のことかと思いましたが、別の人だったようです。そんななか、チームにはまた新人が入ってきます。
新人〈ちいゴリ〉さんはピータさんにゲームのノウハウを教わっていたようでした。その交遊はピータが退団した後も続いていたのです。
リーダーの知らないところで退団組が集まり、他にチームが出来る流れなのか。実態を知るべく〈ちいゴリ〉さんが挨拶してきた瞬間に、俺とマメさんは彼女に会いに走りました。
同じ地域に表示されているのに、彼女の姿は見当たりません。探索ミッション開始かな、なんて叫びながら探しました。
チャットは向こうにも見えているはず。それでも返事は無いようで、慣れない発言に手間取っているのかと思いました。
『もう追わないで』といったのは同じチームのマネージャー、セッちゃんでした。
『!?』俺は耳を、いや目を疑いました。
『なんでだよ』というリーダー、マメさんに対してマネージャーは言葉を濁しました。
『私の口からはちょっと』
『はあ?』動揺したマメさんの怒りが伝わってきます。『まさか、チーム捨てたピータとセッちゃんも、まだ繋がってるのか?』
『……』
『もう誰も信じられない!』
そういうとリーダーは画面から消えてしまいました。不穏な空気がたちのぼり、たった数日で29人いたチームメイトは半分近くが離脱してしまいました。
数日後、俺はリーダーのマメさんに呼ばれ相談を受けます。側近のセッちゃんから話を聞きたいから同席してほしいと。
俺はリーダーマメさんにはお世話になっていた手前、全面的に協力するつもりでした。マメさんはセッちゃんがピータとまだ繋がっているようでも、チームを優先して欲しいと伝えるつもりだそうです。
しばらく現れなかったセッちゃんとマメさん、そして俺たちは薄暗い豪雪地帯の小さな街で顔をあわせ、尋問が始まったのです。
『辞めたはずのレナさん、ピータと新人ちいゴリが会ってたのは知ってたんだよね?』
『うん』
『何でいってくれなかったんだ? 一番に信じてたんだぞ。マネージャーなのに』
『いう必要ある?』
『あるだろ。チームメンバー取られてるんだぞ、こっちは』
『フレと遊んでるだけでしょ。メンバー以外とは遊んじゃいけないってルール?』
『相手はピータだぞ。ずっと俺を批判してきてグチグチ責めてくるような奴だぞ』
『私は……別にピータさんとは会ってないけど、今でもフレだと思ってる』
『あいつは、俺をボロカスに言っただけじゃない。周りにも俺の悪評をふりまいてる。マネージャーなんだから、このチームのほうを優先して貰えなきゃ困るよ』
『……』
俺は仲裁に入るべきだと思い、二人の前にたった。『ピータはマメさんに、チームはこうあるべきだって話を押し付けてきて、変わらないから辞めたんでしょ?』
『え、うん』
『勝手だよ。悪い人じゃないけど、他人の意見きいて苦労してるふりしてマウントとろうとしてたのは知ってる。専門用語ばかりで話せなかったけど。辞めたピータさんと会わないって選択はありじゃないのかな。フレを切りたくないっていうのは勿論わかるけど』
『フレとチーム、どっちか選ぶとかありえないんだけど』
『俺とは遊ぶよね? こんな弱い俺が他のガチ勢チームの猛者たちと遊んでただで済むと思ってるの。俺が猛者と戯れるなんて、そんなことを許せるの?』
いつもなら笑うところだ。『……』
フレとチーム。同じ意味の言葉だから選べというほうがどうかしていると思った。選ぶ必要なんかないと言おうとした矢先。
『じゃあ、抜ける』
『!!』
一瞬で消えた彼女の足跡だけが雪原に残っていた。彼女は、マネージャーセッちゃんは、チームの看板的な人だった。
明るく元気で、実力もある小さな女の子。キーボードで爪が邪魔だとか、結婚するかもしれないとか、そんな話題もあった。
俺は薄々、彼女が本当の女性だと感じていた。あの態度と言い回し、中身はまだ若い女性のそれだった。
『なあ、ヒロちゃん。俺にはもう、リーダーなんて無理だよ。もう……無理だよ』
『……』
なんなんだ、これ(笑)。本編のストーリーより面白くなってきたなって思う自分がいた。たかがゲームに、挨拶だのルールだの。
一般チャット、ウィスパーチャット、グループチャット、パーティーチャット、チームチャットと幾らでも内緒話や密談が出来る世界。
疑心暗鬼、そんな事で傷ついたり傷つけたり、信じるとか裏切るとか。この人たちにとっては、この空間は自分を認めてくれる場所だったのだ。
自分を認めてくれる場所は、いつか自分の居場所になってしまうのだ。
〈続く〉
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