2022.12.03 公募推薦
公募推薦、自己推薦という大学のシステムを知っているだろうか。学校の推薦枠に入れなくても、評定平均値を満たしていれば誰でも受けられ、11月には結果がでるのである。
論文の郵送提出のみで一次選考が行われる。超有名大学に二校とも合格した娘ちゃんであったが、しかし……。
「やっぱさ」夕飯を囲んで、どや顔の高校三ネイちゃんがいった。「受験は情報戦だよね。じっくり時間を掛けて郵送できる公募推薦なら、倍率も低いしさっさと受験が終わっていいよね」
「お姉ちゃんが、いい大学入っちゃったら俺のプレッシャー半端ないよ」と弟くん。「石田家のパパ・ママ、実家も合わせて一番の学歴保持者じゃね」
「パパはお金で入れる大学で、ママは全部落ちたから短大行ったんだっけ?」
「「……げっふっ!」」
確かに受験勉強はたいしてしなかった俺である。そうそうと推薦をもらって二科目と面接の受験だけで合格した。そのあとだったか前だったか記憶も危ういが一般受験では落ちた。なんか、親に八つ当たりしたような記憶があった。
なんていうか、『俺が受からなかったのは、俺を馬鹿に生んだ親が悪いのであって、俺が怠け者だからじゃない!』みたいなことを言って母親を失望させたのを覚えている。
嫁さんはというと、受験では失敗して短大に入り、その場所に納得していなかったから教職をとったりバイト三昧だったりでホームステイでカナダにいったり、後々ざまざまな努力を積んだらしい。
そんなことをいっていた娘ちゃんだが、結果は先週の二次試験発表で二校とも落ちた。金曜日に、泣きながら「もう死にたい。来週から学校も休みたい」というので会社を早退して飯を食べに行くことにした。
ふたりで安楽亭の焼肉ランチを食べた。学校にはまだ連絡していないし、しばらくは休みたいといっていた。
涙をポロポロ流して俺に抱きついた。スマホの電源もおとしている。高校としても異例の公募推薦で他にこの受け方をした生徒も居ないらしく、落ちた時には教師間や生徒の中で絶対に話題になるといっていた。
すでに短大や専門、就職する学生は進路先が決まっている。一般受験が一番最後というのも重圧がかかる。アホな子ほど高校生活を満喫して遊べるシステムではないか。そして、世間は受験に落ちた子が泣こうが喚こうがこういう。
『自分が勉強しなかったのが悪い――』
将来、好きな大学に行けないように好きな会社にも行けないかもしれない。好きな仕事も選べないし、好きな人とも結ばれないかもしれない。さっさと切り替えることが重要だと誰もがいうのだ。
現実は甘くない。二校あれば、どちらかは合格するのではないかと期待してしまった。二次試験は筆記と面接だったが、多少の手応えもあったといっていたのに。
日本のアニメ文化を海外の方に紹介してくださいとかいう問題もでたとかで、ナルトやワンピは海賊王とか火影という頂点を目指す英雄像を持っていたのに対し、最近は鬼滅やらなんやら、普通とか当たり前を目指す傾向があって、日本の経済や若者の意識が平穏を求めていることが分かるとか、書いたといっていた。
すごいじゃん、受け売りかもしらんけど。誰に似たのか立派なオタクに育ったな。
面接も自信があった。なかなか容姿がいいのもあり、おっさんの面接をサービスタイムだと思っている節があるくらい精神的には落ち着いていた娘ちゃん。
『あなたのような人を待っていました』くらい言われるつもりだった(笑)。
結局、娘ちゃんの謎に高すぎるプライドは砕け散った。一般受験に切り替えて正月もスルーして毎日勉強するしか道はない。
諦めたらそこで試合終了ですよーってならないのが人生です。諦めた試合が永遠に続くので、諦めて試合を続けるんです(笑)。
「思い通りにはならないことが多い」と俺はいった。「それがほとんどだ。パパは小説家にはなれないし、世界征服も出来ない」
若いときは震災や戦争で、政治や警察が機能不全になったら、北斗の拳かウォーキングデッドの世界になると真剣に思っていた。
でも実際には、誰もコンビニやスーパーを襲撃しないで列を乱さず配給に並ぶのだ。腹が減っても苦しくても、自分より弱い人におにぎりを譲るに決まっている。
「そんな良識的な年寄りを蹴飛ばして、金や食糧を奪ったり出来ない。だから仕方ないけど真面目に頑張るしかない」
俺は自分でもよく分からない理論で慰めた。娘を落とすような大学なんて、頼まれてもお断りだから気にするなともいった。
娘ちゃんは「でもわたしは、弱者を蹴りとばしてスーパーで略奪したいタイプなんだよなぁ」といって笑った。
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