2022.12.14 感染拡大!?

「高校で男の子たちが噂してたよ」


 娘ちゃんは塾の帰り道に俺にいった。「噂っていうか『石田さんに公募受験、落ちたのか聞いてみろよ。いや、お前が聞けよ。いやいや、どうせ落ちてるでしょ』っていう感じのデリカシーのないヒソヒソ話だったの」


「……本人が目の前にいるんだから、どうどうと聞きゃいいのに。娘ちゃんが可愛すぎるから興味はあるけど大勢の童貞で囲むのは気持ち悪いって思ったのかな」


「ぷっ、そりゃ……まあ、いいや、親の発言とは思えないけど。それで何がムカつくっていうと、私は参考書を開いて休憩時間も必死に勉強してるわけ」


「ええーっ、それ見ても察することはないんか。勉強してんだから、落ちたに決まってんじゃんね。


 まあ、初恋って往々に一方通行だからなぁ。パパも、若い時は女の子に一方的な会話したことあったな。こんど、ジュンスカのライブ行きますとか、この漫画が面白かったですとか、自分の話ばっかりするんだよね。


 必死だから娘ちゃんの気持ちとか考えられないのかもよ。きっと、みんな娘ちゃんが好きなんだよ。好きだと聞きたいことがあってもさ、ほら、わかるかなぁ」


「あのさ、その感覚は私にはまだわかんないけど、私……ぐすっ……しくて……ぃくて」


「!!」


 なんと後部座席で楽しく話していると思っていた娘ちゃんは、といって泣いていたのだった。


 運転しながら感じたのは――こんな父の背中を見て育っては不味いということだった。


「泣くほど悔しかったのか」


「泣くよ。だって合格しなかったら人生終わりじゃん。それなのにあいつらデリカシーがなくって、落ちたか聞こうとするなんてさ……ほんとムカつくよ」


 ドンマーイ! という訳にもいかず、少し俺は考えていった。


「悔しくて泣けるってことは娘ちゃんが、それだけ真剣だってことじゃないかな。本気でやってるから馬鹿にされたら腹がたつんだよ。例えばパパが将棋で藤井聡太に負けても、ぜんぜん腹がたたないもん」


「なんか『ちはやふる』で聞いたような台詞だけど、そういうのちょうだい」


「うん、例えば新垣結衣がどうしても結婚してくれって土下座してきても、パパは大事な娘ちゃんと大事な家庭があるのでお断りしますっていうよ」


「なにいってんだお前?」


「あ、違ったな。いまの例えは(笑)」


 なんて陽気な話をしていたのが金曜日だった。土曜に娘ちゃんは発熱した。


 日曜日に抗原検査キットで調べると、コロナ陽性。月曜日には病院に連れて行って薬をもらい、うどんを食わせた。まるで元気がないが、たまに悪態をつく。


 なんと日曜の夕方から嫁ちゃんまでが発熱。おかゆを食わせ冷えピタを用意し濡れタオルと加湿器をセット。


 息子は8月にかかっているせいかケロッとしているのでオムライスをつくって食わせた。


 喉の痛みが激しいらしく喉スプレーと鼻の通りが良くなるスプレーも購入。追加の抗原検査キットは医師がくる時間帯でしか買えないというので、日を改めて購入することに。


 アイス、スポーツドリンク、栄養価の高いゼリーと、りんごも買った。ひとりでたくさん買い物をするなんて久しぶりだ。


 りんごを剥いて娘ちゃんに食わせると、勉強机に張り紙を見つけた。


 そこには『パパはいつも欲しい言葉をくれて、応援してくれるから、今は自分のためだけじゃなくてパパのためにも合格したい。ママにたくさん当たった分を合格で返したい』と書いてあった。


 ちなみにもう一つのほうには『俺より馬鹿だった奴が俺よりいい大学行くようなら、そいつら全員殺して俺も死ぬ』と殴り書きされていた。


※娘ちゃんの家での一人称は〈俺〉です。


 子供の部屋を娘ちゃんが使い、寝室を嫁さんが使っているため、昨晩は息子と1階のコタツで一緒に寝た。女子がいないと、なんか正月みたいに静かだった。


 病人がふたりいて、自分がかかったら仕事も家庭も大変なことになりそうな状況。


 12月なので仕事の電話もよく鳴るし、社長には「あんたのところは色々なことがあるね」なんて嫌みを言われたが、家族がみんな家にいて――なんとなく大丈夫な気がしてる。


 ぜんぜん大丈夫だよ。




 ※あと7,000文字くらいのさくっと読める短編をアップしました。

『グラン・ブルー』よかったら読んでくださいませ。

https://kakuyomu.jp/works/16817330650548064972


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