2022.09.06 質問するひとは偉いひと
「勉強、マックカフェでやりたいから連れて行ってよ。パパは、普通にしてていいから」
「普通って?」
「ぼんやり食べたり飲んだり、ツムツムしたりすればいいじゃん」
「失礼だな。ぼーっとしてるように見えるかもしれないけど考えてる」
「何を?」
「考えるとは何か」
「……」
受験生の娘が洒落た場所で気分転換したい気持ちも分かる。あまりの暑さと長引く疫病、陰謀論者のおっさんでなくとも、こんなのは世界滅亡の前触れなんじゃないかと思うほど暗いニュースばかりだ。
「うるさくて集中出来ないんじゃない?」
「だからマックカフェなんじゃん」
ケーキとかスイーツも頼めるドライブスルーとガキの遊びスペースまであるワンランク上のマクドナルドだ。
空いてるし、娘ちゃんの勉強してる姿を見ながら読書でもしたら、ゆっくりできるな。そう思った俺だった。
「でも長時間居座ってたら、イカツイ店員さんに、『お客さま、帰りやがれでございます』なんて言われないかが心配だな」
「大丈夫だって、みんなパソコンだしたり宿題したりしてるんだから」
「そうかなぁ。『お出口は此方でゴザイマーック! ドライブゥースルー!!』とか言われないかな」
「ぷぷぷっ」
休日出勤のかわり、金曜日に早退した俺は娘ちゃんと二人で車で15分位かかるマックカフェなるところへやってきた。
「飲み物はエルサイズにしよう。長く居ても大丈夫なように、ポテトとナゲットを頼んだうえに、デザートも頼もう。沢山頼めば長居しても好感を得られるはず」
結構並んでいた。待たされながらあたりを見回すと確かに宿題をしている学生もパソコンで作業している輩もいる。
二階へあがると更に驚かされた。なんと絵の具をパレットにだして絵を描いている小学生らしき女子までいる。
「!?」
筆がすーっと紙のコップへ入りバチャバチャと洗われている。まさか、まさか、Sサイズの安い飲み物しか買ってないっ。それをバケツの代わりにしているってのか。
「す、すげー!!」
「……なにがっ(笑)」
目が離せなかった。女子は普通に水道でパレットまで洗っている。公民館か寺子屋か何かと勘違いしてないかと焦ってしまう。
「ね、大丈夫でしょ?」と娘ちゃんは笑っていた。怒られないなら問題ないのだろうと、ふと自分の仕事について思いが巡る。
数日前、取引先のマネージャーが派遣社員の月15日の契約では人員が廻らないので、少しでも日数を増やせないかと聞いてきた。
この御時世で販売経費を増やすなんてもっての他だが、どうしてもというならイベントや催事で必要な場合だけ営業権で月に2日位は協力するという生返事をしたのだった。
販売員さんも、人が居なくてどうしようもないので歩みよりが必要だとか言っており、売場を維持するには多少の譲歩は必要だと言っておったのだ。
なんと……毎月17日オッケー(笑)みたいに受け取りやがった。確かに毎月イベントはある。ポイントアップとか優待とか催事とか福袋とか、数えきれないほど。
「……はあっ」ため息が漏れた。なんて気弱で周りの目ばかり気にするちっぽけな俺。
ぼんやりしながら、俺も逞しくならねばと考える。気が弱いなら肉体でも理論でも武装すれば、もっと楽になるのかもしれないのに、相談できる人間もいやしない。
つまり、考えるとは何かと考えた。よく考えて返事しろと言われ続けてきた人生だ。ひとりで抱えずに、もっと問うべきなのだ。
夏休みの宿題や高校、大学では考える方法を教えてはくれない。頭のなかで自問自答したり疑問点を分析したりすることを教えてくれたのは漫画や小説だった。
一人称の青春自分語り小説や漫画が好きなのは、思考過程を教えてくれるからだ。そこから質問が産まれれば偉大な前進だと感じる。
「ね、この英文分かる?」
「うむ……いい質問だ」
プライドなんていらない。質問できる人間は思考している人間だ。質問があるおかげで問題点も分かるし課題も分かる。
恥じる必要はない。質問があるおかげで周りの人間の理解も深まるし、互いの認識やスキルもあがっていく。
会社でもまったく質問できない奴がいる。こちらから聞かなければ何も情報が出てこないし、ミスばっかしするタイプだ。
「考えるに、質問するってことにはメリットしかないよね。なんでも気楽に質問が出きる娘に育ってくれてホント偉い、嬉しいよ」
質問するひとはもっと評価されるべきだ。考えることは共に成長するためには不可欠なことであって、生きることそのものともいえる。
「……」娘ちゃんは首を傾げて言った。「解んないんだね。質問して損したわ」
「ぶ、ぶーーっ!!」
やれやれだぜ(笑)。
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