2022.06.29 黄金バット

「絶対にちゃんと口に入れるから」


「やだ、嘘に決まってる。鼻に突っ込むでしょ!」


 夕飯で出てきたポテトを娘ちゃんに『あ〜ん』してあげていた。他にもおかず(ナスの味噌炒め)があったので、たくさん余ってしまったのが始まりだ。


 茶碗も箸もかたしてしまったので、俺みずから高校三年の愛娘の口の中へとポテトを運んで食わせている。


 三本目くらいで飽きてきたので微妙に口を外して顔にポテトを当てたりして、すでにふたりで爆笑していた。


「ひっひっ……」


「ぷぷぷ、わざとじゃないよ」


 俺の箸をもぎ取り、ケチャップを付けたポテトを手に言う。「こんどはふうの番だから、パパの分あ〜んしてあげるね。娘にあ〜んしてもらえて幸せでしょ?」


「う、うん。でも本当おなかいっぱいだから止めて」


「大丈夫、もう三本しか残ってないし」


「だってケチャップが付いてるし……絶対に鼻に付けて鼻血みたいにするでしょ」


「ぷぷぷっ、そんなことしないって。ちゃんと口に入れるから」


「アハハ、嘘だねっ、もう笑ってるじゃん!」


 そして娘ちゃんはポテトをパパの鼻に突っ込もうとワクワクしている。絶対にやるとわかっていても、それは止められない。


「本当に口に入れるから大丈夫よ」


「ええー、じゃあ仕方ない。絶対だよ」


 そして御約束どおり、鼻に当てては腹がよじれるほど笑っている親子ふたり。息子はさっさと食べ終わり、母親は食器をかたしながら呆れた様子で見ていた。


「ひーーーっ、あははははは!!!」


「痛いっ、お腹が痛いっ、おもしろー」


 お約束というのだろうか。食べ物で不謹慎な部分もあるが、これより面白いことは無いのではないかと思うほど笑っていた。


 ダチョウ倶楽部の偉大さに触れた気がした。世の中には色々な御約束があるのだ。それも今では丁度よい発酵具合で楽しめる。


 黄金バットというアニメをご存知だろうか。ニコニコ動画とかユーチューブでいくらでも見れるほど古い作品である。


 オープニングから「黄金バー……」とかなり長く伸ばしたあとに「……ット!」と、御約束の着地を決めてくれる。


 鶴ちゃんのプッ……ツン5にも似た表現ではあるが、こちらは連呼してくれるために御約束感は大きい。


 更に「どこ、どこ、どこから来たのか♪」との問いにもキチンとした回答はなく「蝙蝠だけが知っている」というどうでもいい情報。


 まったく内容のない潔さ。ナレーションで黄金バットは「強い、絶対に強い!」と言うだけあって、確かにワンパンマンや五条サトルより圧倒的に強いのだ。


 そして何より笑えるのが敵のボス、ナゾー様である。下半身がUFO、鍵爪、4つあるスーパーファミコンみたいな目。


 ふしぶしに入る台詞「ローンブロゾー」が最もナゾーであはるが、独自の地方団体か何かの誘導的な宣伝戦略だと考えられる。


 ハイルヒットラーなんだろうけど、自分で言っちゃってるからね。


 ナゾだらけ、穴だらけの内容が愛おしくてたまらない。毎週穴に落ちるけど、必ず横穴があるのも素晴らしい。


 一話が神回すぎて、お腹がいっぱいだが時間をもて余した時にはぜひ、全部ごらんになって頂きたい。


 漢字検定2級に向けて毎日、勉強していた娘ちゃん。部活で忙しいうえに任天堂スイッチを買ってゼルダにはまっている息子ちゃん。


 激務や暑さを忘れて、御約束の世界にどっぷりと浸かってみてはいかがだろうか。


「フハハハハハハハ!」意味不明(笑)

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