2021.10.14 日常を返して

 緊急事態宣言も解除になり、新しい総理もきまり日常が戻りつつあります。しかし、長すぎた緊急事態宣言がデフォルトになってしまった愚かな我が家は、宣言あけにとんでもないストレスを抱えることになっていたのです。


 まずマスクの日常も戻っていないし、二度と戻れないことに今さら気付いたこと。感染者が減った理由も分からなくてモヤモヤするから、余計イラつくのです。


 弟くんの憂鬱。中学三年という受験を控えたストレス。コロナ禍で仕事もないから学級委員長を先生に勧められて、引き受けている息子。

 

 他にも色々な委員会みたいなものを引き受けている良い子ちゃんな息子……ワクチンも七時半からわざわざ遠い場所まで車で二回行ったね。


「こんなの意味ないんだよ!」と叫んでいたのは帰宅して寝てるところを無理矢理つれてこられて注射されるからです。


 犬のワクチン注射と同じシステムです(笑)。噛みつかないだけマシですけど。


 機嫌が悪いからラーメン食わして、古本屋でワンピースを大量買いしてやっと帰ったと思ったら、姉様の怒り狂った姿。


「なんで私だけ家に置いて飯食いにいっていいと思った?」


「いや……塾からまだ帰ってこないと思って」


「謝って! 謝って! 全員で謝って!! 死んでっ!!」


 姉のストレス。高校二年で大学受験コースの勉強が始まりました。10月は休みがない。


 大学の志望校を出してから塾の勉強がめっきりハードになってしまい発売日に予約して買ったテイルズ・オブ・アライズも進んでいない。


 リモートで仕事している嫁さんの横で「塾を休みたい」とか、「なんなら塾なんて辞めたい」とか、電話で辞めますと言っているふりをしたりとか、とにかく邪魔で仕方ないことをしでかすらしい。


 天候も悪くてやたらストレスがかかっている今日この頃。ワクチン接種から一週間たって、嫁さんは鼻がつまって苦しいとか疲れやすいとか言っている。先日の地震では駅に入場規制が入り、普段2分で通過する場所に2時間並ぶはめになった。


 気のせいか仕事でいく売場のおばさん方も、少しイラついているような気がしている。売上が伸びないのは私のせいじゃない、商品が悪いんだって社長に言ってやるっていう販売員さんまでいる始末。


 誰も責めてはいないんだけど、こう暇だと変なプレッシャーがかかるのだろうね。


「なんか季節の変わり目だか知らないけど、みんなイライラしてない?」


「うん。なんかギスギスしてる」娘ちゃんは冷静になって言う。「私たちの日常を返してほしいよね」


 もはや何が日常なのか分からないが、俺は提案をすることにした。お互いのいいところを褒め合うのだ。嘘でもなんでもいいから、互いに気持ちよく笑えるはずだと思った。


「パパの夕飯前だっていうのに駄菓子をボリボリ食べられる神経がすごい」


「あなたのよく見ないでゴミ箱に捨てるところとか尊敬する」


「ワンピース11巻で読むのやめるとか、これから偉いことになるのに勿体ない精神」


「休みの日に使ったお金を請求してくるところとか、器が小さすぎて可愛い」


「髪の毛が薄くてエコ」


「臭いから風呂入ったほうがいい」


「そうそう、そうやって褒めれば……って、けなしとるやないかい! もう、いいです。パパはみんなが幸せそうなら、それでいい。少し安心したよ」


 何か言い返そうとは思ったけど、これって罠だよね。そうはいかないっていうの。





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