2021.06.13 ヴァイキングブーム

乾杯スコール!」


乾杯スコール!」


 8世紀末の北欧、ラグナルの息子たちとイングランドで領土を奪うゲームをしている。プレイステーション4のアサシンクリード・ヴァルハラである。


 鬼滅の刃や呪術迴戦、チェーンソーマンに約束のネバーランド。ダークファンタジーの後はリアル系残虐歴史モノが来るとふんでます。


 物語は雪に覆われた大地、ノルウェーから始まる。せっかく父のかたきを倒したのに借りのあるハーラル美髪王がノルウェー統一王だとぬかしおる。


 仕方ないので仲間や兄貴分と新たな永住地を求め西へと船を出すのだった。海岸線や川沿いにある教会や民家を襲う生活である。


 逃げ惑う女子供をかき分け、略奪のかぎりをつくす仲間たちと儂。髭面のおっさんだから、一人称は儂が似合う。


 驚くばかりなのは蛮族目線の物語なんて、共感出来ないと思っていた自分がすっかり悪魔の所業を楽しんでいることである。


 すでにドラマ「ヴァイキング海の覇者たち」も見て勉強しているので丸盾とハンドアックスのほうが見慣れている状態。


 あの丸い盾は中央の持ち手部分は鉄が使われているが大部分が木製である。しかしそれで良いのだ。矢や剣先が跳ねずに盾に食い込むのが目的だから、そんな知識豊富な儂はヴァイキングのエイヴォル。


 シーズン6まで見て英雄ラグナル、剛勇のビヨルンや怒りのアイヴァー、個性的で魅力あるキャラクターに夢中になってしまった。


 だが、やってることは「残虐な略奪」。不条理な現実と過酷な自然、疫病。そして意外と簡単に街や勢力は大きくなっていく。いきった現代のニューヨークより城壁の街ヨークの方が何倍も美しく魅力的なのだ。


 見処はオーディンやトールといった北欧神話の神々を信じるヴァイキングと、唯一神キリストを信じるイングランド勢の価値観の違い。


 名誉ある死を遂げればヴァルハラの神殿に行って神々と酒を飲むことが出来る。死んだ家族や仲間たちとも再会出来ると信じているのだから、怖いものなんかない。

 

 靖国で会おうみたいな戦時中の思想が平時から根付いている。飲んでたら急に「今日の生け贄はお前だ」と告げるほど残酷な世界観。


 こんなゲームは子供たちには見せないしドラマも一緒には見れない。教育上良くないので自分の人生をしっかり生きて欲しいと願う。


 でも儂はやる。異教徒どもを薙ぎ倒し父の敵を倒し永住地を豊かにするため略奪する。頼まれてなくたってかまわない。


 今の世の中、頼まれなくても行動を起こす連中は沢山いる。報道で反対運動なんか見てると不思議にすら感じる。


 息子は疑問をさらりと口にする。「ワクチン反対とか言ってる人がいるけどさ……射たなきゃよくね?」


「誰も強制してないしね(笑)」


「オリンピックも反対とかも言ってるけどさ……見なきゃよくね?」

 

「出てくれって頼んでるわけじゃないしね。でも感染が増えると困るかな」


「観戦しなきゃいいじゃん。反対意見が弱すぎなのに、言い方は強い感じだよね」


「なるほど、そっちの観戦かぁ(笑)。パパは木村拓哉にはなれないが、木村拓哉もパパにはなれないって主張と似てるね」


「誰もパパにはなりたくないのに本人は分かってないみたいな(笑)」


「価値観が違いすぎて分からないんだ。ヴァイキングとイングランドも実際は言葉も文化も通じない世界で分かりあえなかったんだろう」


 中学三年。受験生になった息子は進撃の巨人最終巻をまだ読んでいない。志望校を決める時期に忙しい毎日を過ごしている。


 朝練も部活もあるうえ、塾は週に三日もあるのだ。何も考えていないようでも色々と世の中に不安を感じているのかもしれない。


「大丈夫だよ」


「何が!? パパこそ、さっさと帰宅してひとりでゲームしてるけど大丈夫なの?」


「そ……それは大丈夫だよ」


 

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