2021.05.24 サニーG

 仲良し女子高生の6人組「SUNNY」という映画を見る。大人になった彼女たちは、それぞれに問題を抱えながらも日々を送っていた。


 こちらサイドの物語はかなりハードモード。末期ガン、アルコール中毒、ブラック企業の駄目社員、豊胸手術しても不倫される主婦など。


 普通の主婦である奈美はメンバーの芹香が余命1か月と知り、疎遠になった彼女たちを捜しだし変わらぬ友情に涙するという内容だ。


 もう一つ、同時進行する女子高生時代の物語メモリアル。篠原涼子と広瀬すずが同一人物というコメディ要素満載のイージーライフ。


 田舎から来たばかりの奈美はルーズソックスもセーターも持っておらず、世紀末バブル期の女子高生から浮きまくる。


 靴下のゴムを無理やり伸ばし、お婆ちゃんの毛玉だらけのセーターを着てくる奈美。あまりの可愛らしさにグループで徐々に受け入れられていく。


 恋や友情、笑い、歌い、踊り、若さに怖いものはない。酒や売春、ドラッグにまで手を出す同級生が現れる。


 普通なら将来に夢や希望を持ち巣だっていく世代だが、時代が悪かった。なりたい自分になって行きたい場所へ行く、なんていうことは異世界転生でもなければ不可能だ。


 今の時代と似ている。いや、いつの時代も同じかもしれない。ずっと笑って生きていけるほど現実の世界は優しくない。


 夜中の一時に起こされた俺は、女子高生の娘を見てそんなことを考えていた。浴室にGが出たため、退治に起こされたのだ。


 そして娘がシャワーから出るまで、見張りに立たされている。排水溝を開けていただろうか。換気扇からだろうか。扉ごしに、気が動転している娘ちゃんと話した。


「この世は神の作った壮大なゲーム。そう思ったら、たかがGの不安も学校の苦しみも客観的に見えるんじゃないかな(笑)」


「うーん……それほど変なことを言ってるわけではないのにキモイのは何でだろう。じゃあ神様はキャラクリを手抜きしてパパみたいな眼鏡キャラに蟹アレルギーのスキル付けたのかな(笑)」


「あのね」バルサン買ってこいなどの様々な愚痴を聞かされていた俺は説得力のある、落ち着いた口調で楓ちゃんに言う。


「中間テストが終わったんでしょ。頑張りどころでストレスが溜まるのは自然なことだよ。その怒りとか妬みの負の感情を一時的にクラウドに保存して見ないようにすれば、余計なエネルギーを消費しないで済むんじゃなだろうか。そう言ってるわけ」


「問題を見ずに楽しいことだけ考えろっつーの!?」


 不安や苦しみを脳内から一時的に追いやり、人生のサニーサイドだけを見る。これはこれで長年培った技術の要るわざだ。


 感情バイオリズムや周りの環境に左右されたくない。つまり気分が浮わついたり落ち込んだりするくらいなら、解決できない問題点は指摘しなくていい。


 揉めるのが嫌いだから。お腹が空いたとか、夕飯は何か聞くだけでも我が家は修羅場になるだろう。


「もう二階行って、寝てもいいかな。今度バルサン買ってくるから。明日もはやいし」


「地獄の炎に焼かれたいの?」そう聞かれた。


「……ここはもう地獄だよ」


「ふ、ふえー、ふえーん」


「どうしたの、泣いてるの?」

 

「ううん、何でもないよ。嬉し泣きだから」


「なら、良かった(笑)」


「そんなわけないだろっ、バカっ!」


 サニーは駄作だった。でもラストのラスト、エンディングで篠原涼子や渡辺直美や小池栄子やともさかりえが、広瀬すずや池田エライザと一緒に女子高生の格好でダンスする姿は笑えた。アラフォーのコスプレ感があんなに楽しいなら序盤から見たかった。


 笑えたほうがいい。俺なら一番笑える部分を初めに書くだろう。配役のせいで忘れていたが、物語は一つなんだから。

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