2021.05.15 娘のずる休み
住宅街にあるあまたのゴミ収集所の上に朝焼けがたちこめるころ、うずくまって寝ている娘ちゃんを起こす。寝起きの表情から機嫌が悪い様子が伺える。
「学校に行きたくない」
「どうして? 何か嫌なことでもあったのか。彼氏にでも振られたのか」
「うっせ。そんなわけねーだろ」
理由もなく学校は休めない。頭が痛いっていうのが嘘だというのは見えみえだ。時間のない朝に難問を突きつけられるのも困る。すかさず嫁さんの一言。
「高校に電話するパパの身にもなりなよ。人のために嘘つきにならないといけないのよ」
「そうだよ、楓香。つかなくていい嘘をついたら、そこからどんどん嘘が積み重なってく。熱があったらコロナだとおもわれるから、どんな頭痛か、あるいはどういう腹痛か電話するママとうまく口裏をあわせるんだ」
「なすりつけあってるね」
「……とにかくどうして行きたくないか説明してくれないと、許せるわけないだろ?」
聞くと今日は全科目が自習らしい。逆に授業がちゃんとあったりテストがあるなら喜んで学校へ行くつもりだという。
うまいこと言うなぁ、と思わなくもない。だが最近のコロナ禍に俺は社会の行き詰まりを感じていた。みんながみんな同じ授業を受けて、同じ課題を与えられ、同じような娯楽を共有する生活に息がつまりそうになる。
「自習なら、家で静かに溜まった塾の講習を受けるから問題ないでしょ。お願い」
嫁さんは呆れた顔をして部屋を出ると、何も無かったように朝食のコーヒーをすすった。
「分かったよ、今日は特別だ。決して朝から揉めて嫌な気分になりたくないからじゃない。どうせダメだっていっても聞かないから、でもない。楓ちゃんが言うことを信じるからだ」
『甘っちょろいな、パパは』
嫁さんも息子も、本人の娘もおなじようにそう思ったかもしれない。でも、俺は思わなかった。
現代社会に生きていると学校の勉強は効率的で便利で実用的で良いことずくめなことのように思える。
しかしコロナ禍で感じることは、みんなが同じようなことをしている現代のようなやりかたでは、ある日ビタッと何もかも行き詰まるのではないかという不安と恐怖を感じる。
大昔の江戸幕府や産業革命以前のヨーロッパのように、実用性がなく誰もが無駄に思えるようなことをしている生活のほうが、かえって社会が硬直せずに柔軟に生活できる。
長期的にみればそのほうが幸せではないのだろうか。仕事がそうだ。暴力的な乱獲で会社の利益を追求するあまり自らの寿命を短くしているように思える。
まあ、他社もあることなので仕方ないともいえるが。社会全体が大量生産、大量消費を肯定している世界で、はたして誰がブレーキをかけることが出きるだろうか。
多様性。金儲けや偏差値みたいに一方行にだけ時間と労力を費やして、変化を顧みない生き方が正しいのだろうか。
そんな訳で金曜日、早退する俺だった。決して母の日商戦が空振りで終わり、無駄な労力で出勤が続いたからだけじゃなく。
土日は何をしようかしらと考えてる。不安にさせるニュースばかりだけど、きっといい週末になると信じてる。
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