2021.05.07 漫画も疲れる
あっという間に終わったゴールデンウィーク。気持ちも身体も重くて精神的にも追い込まれている感覚が襲い、まったくやる気がしない。恐ろしいほど充実感のない連休だった。
人差し指の怪我が治りかけた頃、息子ちゃんが足を捻挫した。五十メートルを6.6秒で走るサッカー少年はボールを蹴りあげた瞬間にピキッと音がしたと言った。
「……で?」
「病院に行きたい。そんで部活を休みたい、音がしたから」
病院に行くまで嫁さんも俺も信じなかった。頑丈が取り柄の颯ちゃんだからどうせ大したことはないと知っていた。
ガチガチにテーピングされてから帰宅すると、すぐさまテープを剥がして風呂にはいる息子。まったく腫れてもおらず、本当に大したことはないように見える(笑)
翌日には五百円だけ持たされて病院に行き何の効果か分からない電気をあてられる。そこで五百五十円必要だと分かり、五十円持って来いという息子。
どうせ暇だから仕方ないが、非常に面倒くさい。娘ちゃんはというと、塾に通いはじめたのはいいが、雨だったり寝坊だったりで送り迎えを頼んでくる。
タブレットからリモート授業も受けられるし教室は何時でも利用出きる。だが月に一度は直接行って進行状況を連絡したり、短いテストをする決まりだそうだ。
「ふうん」俺は運転しながら言った。「そういうのもちゃんとあるんだ。楓ちゃん、全然塾行かないから心配してたんだよ」
「……たしかに、面倒になっちゃうよね。リモートとかのビデオ見るだけの授業。すぐに溜まっていって追い付かないんだよね」
「じゃあ、今日はしっかり勉強してきなね。終わったら電話してくれたら、すぐに迎えにくるから」
驚いたことに、鳴ったのは十分後だった。この違和感は目に見えず忍び寄るウィルスの影のせいだろうか。
スパイスの国では何万人も感染しているとニュースでは連日放送しており、人々の命も文明も経済も崩壊していく。そんな時代に不謹慎な行動はとれまい。
「どうしたの、なんか忘れ物?」
「うん、すぐに迎えに来て。それが大変なことに気がついたの」
俺たちの生活はいったいどうなるのだ。不幸が不幸を呼ぶスパイラルが俺の首を絞めようと回り回っているのだろうか。
「今日休みだった!(笑)」
「……」
誰も居ない教室に二人くらい教師がいて、何しに来たのって顔をしていたらしい。ちゃんと連絡網に書いてるらしいが、このダラけたシステムでは何もかも右から左である。
「ちょっとみんなダラケすぎじゃない。せっかくの五連休なのに、近所をウロウロしてるだけで終わりそうだよ」
俺の言葉に何かを受け止めた楓ちゃんは、そっと目を向けて言った。
「たかが五連休でさ、大型連休とかいってるけどさ。いつもこっちは五連勤なわけよ。大型連勤なわけよ」
「たしかに」
「もっともっと休みたいし、もっともっと漫画を読みたいのよ。だから明日は漫画喫茶に行こうと思うわけよ」
「ま、まずくないか!?」
「はぁー」ため息まじりの娘ちゃんが呟く。「だって学校も仕事も普通にあるくせに土日は外出するなって、どういうことって感じだよっ」
現状は深刻だが、まだ致命的ではない。なにか手を打たなくてはダメだ。対策を、防衛策を講じなければ。だが、このまま籠りきりで無駄な時間を過ごすのは辛すぎる。
連休中いくところも無く、子供たちに提案された漫画喫茶。そんな場所に家族で行っていいのだろうか。
除菌されたカラオケ用の個室で家族と過ごすのは、まったく問題ないという結論に至る。
何時間いようと1300円というパックがあるそうで、食べ物の持ち込みもオッケーだという。ドリンクは飲み放題、ソフトクリームも食べ放題なのだ。
「……疲れたよ」
息子に勧められた『東京リベンジャーズ』を22巻まで読み終えた俺は燃え尽きた。我ながらすごい集中力、一気にこの量を読むことが出きるとは思っていなかった。
「まだまだ読めるよ! 頑張ってパパ」
「西森漫画ならまだいけるよっ、パパ」
「……もう無理だ。しばらく寝させて」
結果、お金を払って無駄な時間を過ごした俺は、こんなゴールデンウィークはこりごりだと思うのだった。
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