2021.04.26 緊急事態宣言(ハードモード)

 三度目の緊急事態宣言はハッキリ言って面倒臭い。千葉や埼玉の担当もあるから仕事量が減るだけで仕事は回さないとならないし。


 この日曜日からと言われても休業補償が出るのか販売員に連絡が出来ない状態にある。決まっていないからだ。いやな予感しかしない携帯電話が鳴った。


『お休みのところ、申し訳ありません。明日から休業に入りますが、御社の商品を開いているフロアに移して販売したいと思って電話させて貰いました』


「あ、ありがとうございます!」


『ただし、条件があって販売員を付けて貰いたいんですよね』


「面積は頂けるんですか?」


『それがラックで四本位になります』


「売上の半分期待出来るかどうかですね。そうしましたら、週三日は出せるかどうかというところになりますよ」


『そうですよね、分かります。他社さんと合同でうまく都合つかかないか改めて連絡させて頂きます』


 一番に電話してくれたような、そうでもないような。何社か出して販売員経費をプールして貰えるなら売れなくても経費倒れはしないと踏んで即答したが人件費負担は予想外だった。


 翌日には手をあげたメーカーから週四日の販売員を取り付けてマネージャーから再度電話が鳴った。


『売り場は月曜日からでシフトを組ませて貰います。毎日、誰か付いている状態にします。面積的には減ることはありませんが増やせる可能性はあります』とのこと。


 すぐさま販売員手配の電話をすると……。


「週三日でシフト組みたいのですが、希望はありますか?」


『ちょっと待ってください。補償があるなら休みたいんですけど。有給もこういう時の為に沢山あるんで』


「……えっ、出れませんか」前日は駆け込みで忙しかったのもあり、出たくないというのが本音だと感じた。


『催事の販売員じゃないんで、他社の商品も売らないといけないんですよね。ちょっとサイズとか在庫を聞かれても分かんないし』


「セールだけですから、案内するだけで大丈夫だと思いますけど」


『他に出れる人探してくださいよ』


「……!」


 これだ。緊急事態宣言が出るとなるとやる気なんか起きないのが現実だ。わざわざ売れるか分からない別フロアに立つのは面倒だし、コロナは危険だし休んでる人がいれば全ては馬鹿馬鹿しく思えてしまう。


 補償が貰えるなら当然働きたくはない。本心では絶対に働かないと言っている。有給があれば全部使えばいいと思う。その後に欠勤扱いになっても誰が損をするのか。


 社員は休むのに、どうして派遣社員だけが働かされるのか。浮き彫りになる条件の低さに苛立ちがあるのだろう。今まで分かってはいたが目を反らしていた現実がここにある。


「分かりました。他の人をあたってみて、明日もう一度連絡させてもらいます」


 他社さんに月曜日から水曜日までの販売員を手配してもらった。木曜日からうちの販売員を付けて辻褄をあわせるか。見つかるのか?


 全部他社さんに手配を頼んで人件費をパーセンテージで請求して貰う方法もある。同じ都内の開いている販売員さんに出てもらう方法もあるにはあるが、借りを作ることになる。補償に触れず騙すような事だから。


 知り合いの派遣さんと直接の上司に電話してみる。他社でも開きフロアに商品を運ぶ話が出ているらしく補償が決まっていない時点では身動きが取れないらしい。


「もしもし、実はコレコレで販売員さんが手配つかなそうなんで○○さん、貸してもらえないかと思いまして。休業でフリーですよね?」


『こっちも催事扱いになると補償以外で販売員を探さないとならなくなりそうだから、月曜日相談しよう。それしかない』


「……分かりました。お休みのところすみませんでした」


 何なんだ、この仕事。世の中のしわ寄せが立場の弱いものどおしでグルグルと回ってる。胃がムカついてどうにも収まりがつかない。






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