2021.04.15 アンという名の少女


「良い先生ってさ、あって数分か少し話しただけで分かるんだよね」


「……」娘ちゃんはたまにエグみのキツい言葉を発する。「別れてから良い先生だと気付かされる教師だっているんじゃないかな」


「それは後付けで良い話にしてるだけで、私は信じないんだよね」


「ふーん」


 

 今回お勧めのドラマは「アンという名の少女」めちゃくちゃ面白い。ネトフリでジーンズ3までほとんど一気に見てしまった。


 赤毛のアン自体が面白いのは当たり前。しかし三話あたりから原作を越えてくる。なんとマシューが死なないらしい。それだけでオジさんは安心して見れるのだ(笑)。


 なんせ一番に感情移入できるのがマシューだから仕方ない。アンはうるさいし、マリラは厳しいし、ダイアナは真面目だし、ギルバートは誰もが好きになりそうな出木杉くんだし。


 アニメよりはるかにマシューがイケメンなのも素晴らしい。学生時代のマシューや母の介護をする若き日のマリラも登場。ほろにがなアナザーストーリーがちりばめられている。


 まあシーズン3で打ちきりらしいんで分からんですが。アニメと違い大人向けなダークな内容も入ってくる。女性差別や黒人差別、インディアンまで登場。


 将来的にアンは革命でも起こすんではないかと思うほど暗い偏見や差別を打ち砕いてくれた。泣けます。


 教師と年上の生徒がイチャついてるのを目撃してしまうアン。「男の人はみんな股間にねずみを飼っているのよ」……なんて下ネタのせいで女生徒からも不潔だと言われます。アンもよく分かっとらんと言ってる(笑)。


 親たちにも孤児には近付けたくないと思われてしまう。確かに親の気持ちもよく分かる。さすがにマリラも下品な話題にショックですわ。


 しかしマシューだけはこう言う。「あの子は見たくて見たわけじゃない。知りたくて知ったわけじゃない。その環境から、今の場所へ来られたのだから温かく迎えてやるべきじゃないのか」と。


 差別や性の意識、ましてアンの生理なんてアニメではまず扱わないテーマだろう。シーズン2ではグリーンゲイブルズに詐欺師の二人組が同居する。


 もはや全く別作のような展開で原作が読みたくなる。新任のステイシー先生がやってくるが、トラブルメイカーのアンの仕業だけでなく、ついていない。電球割って手を切る生徒や、野外授業で足を怪我する生徒まで。


 ステイシー先生は革新的でアボンリーには居ないタイプ、魅力的で頭がよくてアンに多大な影響を与える。教師になりたいと思うのも彼女のおかげだ。


 同じ女性の教師、楓ちゃんの中学のときの先生は、辞めるときにこう言ったそうだ。


『……私が被災地に戻って働きたいと決めたのは一年前です。だから、この一年は教師として最後の年になると思っていました。だからあなたたちには、厳しくしました』


 誰ともなくクラスの生徒たちからは泣き声が漏れはじめた。今の今まで嫌いな先生だった人が一躍、立派な恩師に変わる瞬間だった。


 後日、休みの日にも関わらず一緒に写真を撮りたいと集まる生徒たち。楓ちゃんをハブっていた生徒も急に素直になって謝りだしたらしい。


「そんなの知らないけど体罰してたし、被災地行くのは自分の都合だし、そもそも一年前から決めていたわけがないし、決めたから厳しくする意味が分からんよね」


「……な、何っ!?」


 穿った見方をする娘は悪魔のように笑っていた。真実は誰にも分からないが女の子はたまに異教徒のような爆弾発言をする。無宗教だけど(笑)


「で、でも友だちとかは反省したり前向きになれたんだから良かったんじゃないかな。色々振り返って謝った子もいたんでしょ」


「許さないって言ったけどね」


「……ええと」


「先生の思い出を忘れないように。私もハブられた怒りを忘れないようにするわって」


「そんな。まだ忘れてないってこと?」

 

「ぷっ」楓ちゃんは笑っている。「起こったことは忘れちゃうけど印象は変わらないよね」


 想像力で絆を深め、成長していくアン。現実が想像以上に亀裂を深め、成長していく楓ちゃん。太陽はケープをまとったように雲に隠れていた。


 俺は雨が降ってきたので息子を塾に迎えに行く間、少し考えさせられた。成長は人それぞれだろうが、とにかくそうやって生きていくしかないと思うほかなかった。


 


 


 

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