2021.04.01 4月は君の本性
KAC2021お疲れ様でした。沢山の物語、楽しませて頂きました。お読み頂き、温かいコメント励みになりました。
4月は人事異動、お別れや出会いの季節です。先日取引先で新たに担当者を紹介して貰うことになった俺は。
「はじめまして、石田と申します」
「……」マスク顔の女性の目は何かを訴えている。「何年か前に担当して展示会も行きましたけど石田さん、覚えてないですか?」
「あっ、はい」
全く記憶がない。変な汗が吹き出して自分はどんな話をしていたのか、どんなキャラだったのか何も分からない。
「……す、すみません。その節は、また宜しくお願い致します」
「ええーっ、覚えてないんだぁ」
いつでも誰とでも同じように接していれば戸惑うことも無いのかもしれない。だが、俺という人間はサービス精神が大勢なので笑ってくれる人には冗談を言い、ボケてくれる人には突っ込みを入れるという中途半端なスタンスをとる癖がある。
いや、それほど器用ではない。大抵は相手に注目されないので気配を消して雑用に明け暮れる下っ端戦闘員の役割を演じるだけ。
カッコいいとは思わないが、気配を消して雑用をこなすほうが好きなのだろう。見ている人なんか居ないほうが助かるのだ。
そんなやり取りのあと更にもうひとりの女性を紹介していただく。今度は大丈夫かと思いきや、その人も俺を知っていた。
「私も展示会行きましたけど、本当に覚えてないんですか、私のことも?」
「いえいえ、はい。汗が止まりません」
「アハハ、改めて宜しくお願い致します」
このように、名前と顔が一致しない病を背負って今まで、これからも生きていかなければならない。なんて薄情で人に興味のない俺。家族に失敗談を話すと嫁さんはこう言った。
「だからパパはみんなに嫌われるんだよね。女の人は名前とか覚えてないとか気にするからさ。知らず知らずにパパは人を傷付けてるんだよね。自覚するいい機会だね」
「ブッ、嫌われ……みんな!? 不思議だよ。女心は少しも理解出来ないのに嫌われるのは得意(笑)」
「……分かるわ」楓ちゃんは自分にも心当たりがあるようで、会話に参加した。
「実は私もクラス全員の名前とか分からないよ。その時々でまあまあ仲良くっていうか、期待に応えるような会話しちゃうから、後から名前呼ばれても誰だっけみたいなことある」
「うそ、クラス内であるんか!?」
「あるね。下手に調子のいいテンプレ会話が出来てしまうが故に、距離感が分からないままの友達。こっちは友達と思ってない友達」
「あんた、なかなかの薄情者だな」
「でも仕方なくない?」きんぴらのゴボウとニンジンを箸で選り分けながらつぶやく。
「モブの名前とかいちいち覚えてらんないし、波風はたてたくないし。どちらか言うたら会話もさ、自分に話してるだけっていうか」
「あんた、なかなかの薄情者だな。誰に似たんだ。まさかまさか?」
「……ママだね(笑)」
隣では焦った顔をして右手をブンブン振っている嫁さんがいた。
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