2021.03.07 バナナ魚と亀ックス

「まず路地裏でサラリーマンが殺されるんだけど、最後にバナナフィッシュって言い残して死ぬの。バナナフィッシュが人物なのか組織なのか分かんないの」


「ヒントは」俺はハシを置いて聞いた。「まさか、その単語だけ?」


 主人公はギャングの若きボス、アッシュ。マフィアとの抗争で荒れたダウンタウンに取材に来たカメラマン、その助手である英二と知り合う。


「あと粉が入った瓶」


「麻薬か……そいつがバナナフィッシュか」


 土曜日はむすめちゃんと二人で丸亀製麺でうどんを食べた。うどん粉では無さそうだと思った。名作といわれる『バナナフィッシュ』に絶賛はまり中の娘は、父親にアニメを勧めてくれる。


「なんで分かるの!?」


「ギャングの粉は麻薬に決まってるじゃん。うどん粉だったら丸亀の契約社員と出会う話になってるし、パン粉ならフィレオフィッシュっていう題名になってる」


「つまんなそー。バナナフィッシュはサリンジャーの小説に出てくる架空の魚で、見たら死にたくなるんだって」


 サリンジャーは面白かった。ライ麦畑でつかまえては大学で受講した野崎先生の翻訳版で読んだ。Bしかくれなかったのが懐かしい。


「ギャングの子供たちと、マフィアの抗争。ただの麻薬じゃなくて、自殺させるような幻覚作用があるのかな。結構面白そうだね」

 

「じゃあ13話まで見といて。追いついたら一緒に見ようよ。絶対面白いから」


「わかった。学年末テスト終わったら見よう。楓ちゃんのお勧めは間違いないもんね」


 人のお勧めはなるべく受け入れたい今日この頃である。今は流されていたい。ついでにスリッパをお揃いで購入して帰った。今は特別価格で790円なのだ。


 ユニクロのスリッパが日本で一番売れているとある人から聞いた。専門でやってる会社からしたら脅威だろうと思う。


 影響されやすい性格もあるが、他人が良いというものは大抵良い。スリッパ屋さんには悪いが履き心地が最高である。


 日曜日はむすこちゃんがポケモンカードを売りに行きたいというので付き合わされた。大人の身分証明書が要るようす。


 モールに嫁さんを残して15分ほど歩かされる。ピカチュウのカードが1800円、6枚合計で4000円を越えたのに驚く。


「やった!」颯ちゃんはガッツポーズで言った。「これでね、おれカメックスのカードパック買えるよ」


「アメックスならぬ、カメックス(笑)。せっかく売りに来たのにまた買うの?」


「うん、いいでしょ。みんな持ってるから」


「みんなデュエルマスターなん?」


「うん、みんなやってて三組の○○君が強いんだよね。パパもルールブック読みなよ。パパ専用のデッキ作ってあげようか」


「……いいや」


 お勧めされても困る俺だった。みんなデュエルマスターっていうのは嘘だと思った。そんな学校ないから。


 明日から地獄の12連勤です。家族の送り迎えしかしてない休日だけど、平和に過ごせて良かったです。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る