2021.03.04 愛されカースト
三月三日は俺の誕生日。
この世界は愛されようと思えば思うほど嫌われるシステムだと知っているだろうか。いや、少なくとも我が家ではそうなのだ。
「パパのことだけどさ」楓ちゃんが言う。「本気でパパのことを好きな人はこの世に一人もいないと思うんだよね(笑)」
「どうしてそゆこと言うの?」
「実家では愛されカースト高いと思ってるかもしれないけど、お爺ちゃんもお婆ちゃんも叔父さんもみんな、パパのこと嫌いだと思うよ(笑)」
そんなこと言ってるけど、本当はパパのことが好きなんだろう。でなければ、こんな悲しい告白をする意味がない。むしろママの方に対してウザイだの嫌いだの言うシーンはよくある。
「……」ため息をついて続ける。「ママはツンしてからのデレが可愛いから、そういう酷い言葉もでるけど、裏返しなんだよね(笑)」
「はあ? じゃ、じゃあパパに対しては裏返しじゃないってこと? 本気のストレートでガチ殴りなのっ!?」
「うん、ボコボコだよね。ぷぷっ」
このままでは夜中に目を覚まして天井を見つめながら息を殺して泣いてしまうかもしれない。なんて酷い仕打ちなんだ。
「これは、本当に教えてあげるけどパパのうちでの愛されカーストは、飼ってもいない犬以下だよ。みんなが言ってたもん(笑)」
「……!」
なんだって。だがしかし、そんな事を言い出したら誰だってそうなんじゃないか。だいたいみんなって誰だよ。突き詰めたらみんなっつーのは、お前の意見だろ。風の噂なんて大抵は本人が発端なんだ。
「小説もさ、イキり中二病の共感羞恥が文章から滲み出てくるから、恥ずかしい話はやめたほうがいいよ(笑)」
ほうほう……さては前回のクズエピソードが不味かったのか。そいつは悪かったですね。でもめげないもん、大人になったら愛すべきクズだと気付くはず。あいる様もそう書いてくれたし。いや、墓場まで持っていくべき話だったか。
「離婚されないのは、私と颯ちゃんが産まれてすごく可愛いから仕方なく離婚しないだけだから。まじウケる(笑)」
「……ま(笑)」
娘の部屋でバターピーナッツを食う手を止めて、俺はひとり居間に移り寝転んだ。女の武器は噂話だと聞いたが、本当だと思った。みんなが言ってたという未知との遭遇。
実際は笑いながらの会話だったのでキツめの冗談なのだが、こうやって文字に起こすとパンチドランカーになりそうなレベルの暴言だと気付かされる。
すべての女性は強くなった。最近は女性のほうがアニメや漫画を読むようになった。職場で授乳する日は近いだろう。なんてジョークは批判を受けるのだろうか。
会話を通じ洞察力を磨くことや、議論を優勢に運ぶことは重要だ。会話もしない家庭よりは数段まし。話すことは離すことと似ている。
楓ちゃんは嬉しそうに俺を蔑む。ガンジーやキング牧師以上に、娘ちゃんの演説は俺の心を打った。打ちのめすほうの意味で。
時計は21時で、嫁さんは残業。弟くんは塾で帰宅は22時すぎ。明日、学年末テストの楓ちゃんは自分の部屋にこもりきり。息をきらして嫁さんが帰宅する。
レトルトの鮭と煮物と味噌汁は美味しかった。誕生日らしいイベントは皆無。プレゼントなんか貰ったら返す手間が増えるだけだから、いちいちやらない。だが、楓ちゃんは嫁さんに聞いた。
「ケーキとか買わなかったんだ」
「ひな祭りでコージー並んでたから。楓ちゃんもひな祭り祝いたかった?」
「さっき、パパを奈落に突き落としたから、小さいけど私の分のタルトケーキを切り分けてくれない?」
「優しいね、娘ちゃん。良かったねパパ、誕生日おめでとう」
「パパ、おめでとう」
これでチャラ!? 別に構わないけど本当の意味でサプライズバースデーだな、おい。少しは父親の威厳を知るべきだと思った。
「プレステ5買っても遊ばせてやらない」
「……成長しないね、年とっても」
「今の無かったことにして(笑)」
※ あまりに笑えないので(笑)を入れてみました。笑い声は自分で入れてください。
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