2021.02.27 テイルズオブふーちゃん

 二人がまだ小学生か保育園の頃。子供たちと一緒にゲームキューブの『テイルズオブシンフォニア』をやっていた。


 オープニングムービーを一通り見るのがお約束だった。楓ちゃんと颯くんは歌詞を覚えて二人で元気よく歌った。


「よーぞらをかーける、なーがぁれ星をいまー見つけられーたらぁ何をねーがーうだろぉ~♪」


「たーびぃだーつ、きーみとかーわぁした約束、こーこーろぉの中にいつーもある♪」


 ゲームをやる時間のない日はオープニングだけ流すこともあるほど、あの歌が好きだった。さてこのロールプレイング、ドラクエやFFとは違う楽しみ方があるのをご存知だろうか。


 戦闘に突入すると四人同時のアクションゲームとしても楽しめるのである。更に新しい技を覚えると好きにボタンを振り分けてカスタムまで出来るのだ。


 プレステ2の『アビス』やWiiでの『グレイセス』では自由度も高くなり連携した必殺技を使ったりもできた。俺たちは『ヴェスペリア』まで一気に駆け抜けた。


 物語は幼い子供には少しハードだった気もする。人間牧場だとか町が燃えたりだとか感情移入しすぎて泣いて抱きあったりした。難しい話になると颯ちゃんは分かってなかったかもしれないけど。


 サクサク進めるよう攻略本も読んでイージーモードに。俺たちは三人で洞窟を探検したり、砂漠を歩き、雪山をさまよった。たまにはいる会話シーンやムービーもキレイで楽しかった。


 主人公ロイドを使い猪突猛進する颯ちゃんと、ヒロインのコレットを使い距離をとって戦う楓ちゃん。お互いに騒がしく戦略的な指示を叫ぶ。


 回復や強力な魔法を使う先生や大人のキャラクターを使うのが、俺。クラトスがロイドの父親だと知って感激した。


 最高の思い出だった。ゲームキューブはファンタシースターオンライン、ナルト、マリオカート、スマブラといいゲームが揃っていた。


 楓ちゃんと二人で秋葉原のショップに行ってテイルズフェスの写真をいっぱい撮ったこともある。どれも懐かしい思い出だ。


 あんなふうに、親子でゲームが出来たのは意外にも僅かな時間だった。友だちと桃太郎電鉄をするより楽しかった。


 だが時間を忘れて遊ぶことはもう出来ないし、成長すればスマホで友だちと遊ぶほうが楽しくなる。


 プレステ2とソフト、Xbox 360のソフトを整理して売り払った。実は屋根裏にはゲームキューブとWiiがしまってある。俺は売るのを躊躇った。


 子供たちは忘れてしまうかもしれない。オタクな父親おやじとゲームをしたことなんて、思い出したくないかもしれない。


 ここしばらくゲームもやっていない。すこし寂しい気はするが仕方のないことだ。みんな大人にならなくちゃいけない。そんな夜に、二階から声が聞こえた。


「彼の者を死の淵より呼び戻せっ、レイズデッド!」


「……なんか叫んでたよね?」


「叫んでないよ、そんなわけないじゃん」


 楓ちゃんがプレステ4でゲームをしているようだった。『テイルズオブベルセリア』をやっていた。楓ちゃんは、あれからも一人でずっとテイルズをやっていたのだ。


「すごく面白いよ。パパもやったほうがいいよ。プレステ4はコントローラーが一個しかないから一緒に出来ないけど」


「いや、いいよ。また前のと違うやつやってるの?」


「うん。エクシリアもゼスティリアもあるけど、ベルセリアはまじでお勧めだね」


「……ふうん。叫んでたよね?」


「叫んでないよ、そんなわけないじゃん」


 少し複雑な俺だった。楓ちゃんを立派なゲーマーに育てたのは、やっぱり俺だと言わざるえない。部屋からでるとまた楓ちゃんの叫ぶ声が聞こえた。


天光てんこう満つる所に我はありっ。黄泉の門開らく所に汝ありっ。出でよ、神のいかずちっ、インディグネイションっ!!」


「娘よ……ダイジョブか」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る