2021.02.16 レイクタウン
俺たちが北欧家具の魅力に翻弄されながら、ランタンやジップロックを買っていたのと同じ頃に娘ちゃんは巨大ショッピングモールに行っていたそうだ。
「ビレバンのアウトレット館で古いアニメの文房具、沢山買ってきた」
「あっそ」
「パパたちも美味しいもの食べてきたらしいけど、私はいきなりステーキ食べた」
「あっそ」
「洋服もすごく安くて可愛いのがあったから、パンツとブラウス買った」
「あっそ」
「……呪術迴戦のクリアファイル、押しの釘崎が出るまで五回ひいた」
「あっそ」
その日、友だちとの待ち合わせに間に合わないと言って車で駅まで送らされた。帰りは渋滞にはまったので娘は歩いて帰ることになった。
「バイトのお金おろせたから、自分のお金で自分の好きなものに、たっぷり使ったけど文句ないよね」
「あっそ、ないね」
疲れていたのもあったが、また友達の悪口が始まると思った。楓ちゃんの作ったブラウニーは絶品だったが、友達から貰ったお菓子は酷い味だった。
確かに一口食べさせられたが、酷かった。小学生の頃は親と一緒に作ることが多いせいか、大抵の手作り菓子は美味かった。
だが高校生になると、下手に知恵がつくせいか、バターの代用はこれでいけるなどと本気で考える猛者があらわれるらしい。
うちの楓ちゃんはお店レベルのお菓子を作れるし、頭もいいし可愛い顔だしスレンダーな長い脚でスタイルもいいしセンスもいい。
学校でもよくこう言われる。
『楓ちゃんて可愛いね』
笑顔いっぱいでこう返す。
『そんなことないよ! ○○ちゃんのほうが可愛いよーっ』
だが楓ちゃんは内心、鏡なら持ってるから言われなくても知ってる、そう思っている。娘が本当に気の合う友達を探すのは、望遠鏡で火星人を探す位に難しい。
普段から、まわりにいる女子高生を見下しているというか、馬鹿にした発言をする。彼氏の自慢話などうんざりだと言う。
「誰と行ったか聞かないんだ」
「聞かない。楽しかったなら良かったんじゃん。油粘土味のブラウニー食わせる友達? それとも紙粘土で作ったクッキー食わせる友達かな」
今日はよく喋るし、機嫌が悪い様子でもないようだった。まさか、彼氏でも出来たのだろうかと疑った。何が言いたい?
「ドタキャンされて、ひとりだった」
「……あっそ」
内心では、えっ、えっ、えええっ!?
「一日中ひとり。ひとりでATM行って電車に乗って、昼ご飯食べて、買い物して帰ってきた。朝から晩までひとりで過ごした。悪い?」
駅に着いたとき友人から、電話があったそうだ。病院にいかなくちゃならないので、遊ぶ予定は中止になったと。
心配されると思ったのか、しばらくは友達と遊んできたていで話していたらしい。実際どうか知らんけど、ボッチになったり、嫌なことがあった可能性はある。
寂しかったのかもしれない。沢山買い物をして、俺に沢山自慢していたのもうなずける。
「あっそ……ゆっくり買い物出来て良かったね。いい思い出になったんじゃない」
「うんっ」
悪気は無い。でも女子との話は長くて何が言いたいのか分からないから、そっけなくなることがある。よく腹がたつと言われる。
「……あっそ」
自分の意見を言っても、言わなくても上手くいかない。聞いて欲しいのは分かるが、率先して聞こうものなら、逆に俺なんかに詳しく話す気は無いといわれる場合すらある。
つまりこれは罠だ。食いつくところじゃないに違いない。真顔であっそ、あっそ言っておけばそれでよい。
「パパのそういうところ、七周まわって好きだよ」
「大分、回らないと好きじゃないんだね」
「今ので八周目に入ったからまた嫌いになるけどね。ぷぷっ」
「……あっそ」
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