2021.02.02 断捨離反対派

「ママの二度と着ない服とか、昔の会社の資料とか簿記の本とか捨てれば?」


「それは無理、颯ちゃんは自分の部屋の掃除しなさいよ」


「ショートパンツとかもう捨てなよ。ニーハイとの組み合わせなんて今時、流行んないよ」


 子供たち二人は、倉庫のようなママの部屋を明け渡せと訴えた。漫画部屋かゲーム部屋、気分転換にくつろげる部屋が欲しかった。


「楓ちゃんは、要らない少女漫画沢山あるでしょ。あれ「12歳」とかもう絶対読まないよね、16歳なんだから」


「じゃあ、ママも掃除するって言って。もう、そう言うだけでいいから。その五文字を言うだけ。そ、う、じ、す、る。はいっ」


「……いやっ。駄目っ、言えない」


「どうしてだよおっ!」


 真ん中の部屋を片付ければ、家はまあまあ広いはず。だが掃除をして物を捨てるのには嫁さんの許可がいるのだ。


 引っ越した日からほとんどそのままになっているような要らない洋服やくだらない玩具。読まない漫画や本が山ほどある。


 思いきって捨てる勇気が必要だ。だが山ほどあった紙袋やコンビニ袋が最近になって大活躍しているのも事実。


「ほらね、捨てなかったから役に立ってるじゃないの」といわんばかりに俺を見る嫁さん。こっそり捨てていたのはバレていない。


 輪ゴムや食パンの留めがね、小さな蝋燭や鉛筆。コードを巻く針金みたいなゴミは俺が定期的に捨てているが、嫁さんは絶対に捨てない。


 流石にテイクアウトの容器や割りばしは捨てることは容認しているが、世間でゴミと呼ばれる物が我が家には沢山あるという始末。


 備蓄されている食糧、飲料、洗剤、ティッシュ、マスクも恐らくは普通の家の三倍はある。単2の電池まで買ってあるとは恐るべし。


 食器棚はテトリスのようにうまく回さないと収納しきれない。来客用のコップ等は人生で一度も使われないまま廃棄されるだろう。お客なんか来ないのだから。


 肉親か子供の友達以外に、二十年は来客はないし、人を呼べるような状態になったこともない。勝手に掃除して怒られた経験のある俺は、嫁さんをいつの間にか容認していた。


 仕方ないだろ? 尋問するのか。夜中にゴミ捨て場まで食器を回収に行ったことだってあるんだぞ。嫁さんは断捨離の真逆に鎮座する尊いお方なのだ。


 いや、この状況を心地よく感じていたのかもしれない。俺が積んでいるゲーム類や昔のジャンプ漫画や小説もなかなかの数がある。キン肉マンやぬ~べ~なんてまだ読むのか。


 溢れだした洋服がタンスの横に積まれ、タワーになっていた。収まりきらない洋服が崩れ落ちそうになって、何かを感じた。


「もう、決めよう。掃除するべきだよ。要らないものは捨てよう! 決断するときだ」


「……まだ使えるのに? 今はそういうタイミングじゃないのよ。すっきりした気になっても、どうせすぐ一杯になるし、何でも無いよりあったほうがいいに決まってるでしょ」


「きちんと使わないものを整理するだけ。要るか要らないか決めるだけだよ」


「決められないってば」


 世間の断捨離ブームとは真逆の流れ。問答がしばらく続いたが、嫁さんは決して掃除するとは言わなかった。


 何年も前の子供たちの書いた絵や、保育園で作った作品。一緒に買った洋服やバック。その思い出を、彼女は絶対に捨てたくはないんだ。何かを失うことが耐えられない。


 それは愛かもしれない。思い出を守りたいという純粋な気持ちかもしれない。あるいはぐうたら。落ち着いた頃に俺は言った。


「ゴザの匂いを嗅ぐと判断力が増すらしいよ。あと、おしっこを我慢している時は決断力が増すんだって」


「……結婚する前に知りたかったわ」


「なっ、なんでそんなに掃除が嫌いなの。子供たちだって昔の教科書とか勝手に捨ててるんだぞ。少しは協力しなよ」


「うるさいわねっ。散らかっていても私は何処に何があるか把握してるの。だから勝手にいじられたら困るでしょ。それとも、あんたも捨てられたいの?」


「……!」


 愛が憎しみに変わる瞬間ときを感じた。地道に少しずつ掃除します。


 






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