2021.01.08 運に委ねるのは間違い
もはや運頼みという感染力。くじ運は昔からよくない。夫婦揃って凶を引いたこともある。今年は嫁さんと息子がおみくじを引いたが、結果はふたりとも末吉。嫁さんはいう。
「お婆ちゃんは、お寺の娘だからくじ運がむちゃくちゃ良いって言ってたよ」
「そういえば、一昨年くらい懸賞で当たったバーベキューセット貰ったね。一回も使ってないけど。なんかコツとかあるんかな」
ハガキには書き方や綺麗な字体、女性で年齢や住所の見易いものは選ばれやすいと思う。義母は懸賞を当てまくっているらしい。だが、くじ運にコツはあるのだろうか。
「そりゃ、神社に入るときのマナーとかは大事よね。鳥居のくぐりかたとか参道の端を歩くとか。二礼二拍手一礼とかね」
「それ誰が見てるの?」
「あら、そこからなんだ。そもそも神様を信じてないんじゃ話にならない。くじ運なんか絶対よくならないね」
「えっ? お、お前、信じてるの」
自分もくじ運は悪いくせに、上から目線。普段の行いはスルーして、神は直前の神社独特のマナーだけをチェックしてるらしい。
神にとって見やすいハガキと二礼二拍手は同意であり、かろうじて読める字なんてのは問題外なようだ。
そこだけ見て、くじの優劣をつける神様って相当ヤバい奴だなと言おうとしたが、聞かれていたら嫌だと思って口をふさいだ。
はっとした。誰に……神にか。知らぬ間に俺も神様を信じていたのかもしれない。恐れを知らない娘を見る。
「毎朝、ママとパパは目覚まし占い見て一喜一憂してるけど、あんなの関係ないからね。普段の行いだよ。普段の行いが自分に返ってくるんだよ。神様なんか見ちゃいないよ」
「おおっ、楓ちゃんは神様を信じないようだな。俺は言ってないから、もしこれを聞いている神様がいたら、楓ちゃんにだけ罰を……」
「やめて! これはパパに言わされているんです。パパに罰を与えたまえ」
「アハハハ、やめろおっ! ひとに罪を擦り付けようとする浅ましい娘に天罰を!」
「だから、やめて! そうやってるうちは、絶対に大吉とか出ないからね。パパに罰がくだりますように、お願いいたします」
「……信じてるやん、神」
神々がこんな会話を聞いているはずがない。占いや運勢は確率だと聞いたことがある。データの蓄積から淘汰された情報であって霊的な要素などあり得ない。
サイコロをふって6が出るのも偶然じゃない。持ち方、角度、力量や環境をインプットして投げれば必ず6が出るだろう。何度でも。
分からないもの。天変地異や洪水、得たいの知れないものを人々は神の仕業だというのだ。実際はノアの方舟だって分からない。
あらゆるつがいの動物を船に乗せるなんて不可能だ。それに、嵐の収まるまで四十日。その間ライオンは兎を食べないのか。
まあ、全員が喧嘩をしないように檻か何かに閉じ込めてコールドスリープすれば可能か。未来人が宇宙船ノアでやってきたならわかる。
俺は宗教も神様も興味ないくせに、聖書について娘に言った。
「食糧は助けを求めて、船に乗ろうとした人間かもしれない。そうじゃなくても、船の周りには生きようともがいた動物たちの死体が浮かんでたのかも……」
「はあ? 嵐なんだから、浮かんでくるわけないでしょ。食ったんだよ、食われた動物は図鑑にだけ残っている絶滅種なの」
「……!!」
議論は終わった。娘はパパに天罰がくだりますようにと祈っていた。もし、神が聞いているなら娘にも同じ規模か、それ以上の天罰がくだるだろうと思って悲しくなった。
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