2021.01.07 形式的対話術

 人事異動などで初対面の挨拶、世間話、会話するのもかったるい御時世なので俺の考えたテクニックを伝授しようと思う。とくに面倒な若い女性の場合から。


「はじめまして、○○と申します。よろしくお願いいたします」


「はい、よろしくお願いいたします。えっ、おいくつ? ああ、いきなり女性に年齢聞いちゃったりしてすみません」


 年配の女性には勿論タブー。初めて会った日に年齢聞かれたと語り草になるのも一興ではあるが、お勧めはしない。だが明確に年下ならば問題はない。


「いえいえ、大丈夫です。二十一歳です」


「若っ! それじゃ、大変ですね」


「……はぁ」


「何が大変かは知らんけど」


「あははは」

「アハハハ」


 大抵は受ける。受けなくても初球を狙いにいく姿勢が大事だということを忘れるな。


「色々とあるよね。ここで会ったのもきっと何かの縁だから、困ったこととか悩み事とかあったら、気楽に言ってください」


「あ、ありがとうございます」


「……でも余計なお世話だよね。冷静に考えたら。ははは、とにかく宜しくです」


「アハハ、よろしくお願いいたします」


 はい。このように、相手に話す隙を与えずに適当な人だけど優しくて面白い人の感じで終わります。基本的に話は聞きません。


 話す内容もこのように決めておけば、堂々としていられるので印象はよいはず。


 本当に悩み事を言ってくる人は、まず居ないが、いつでも困ったことがあれば……というくだりは重要。すんなり言うのは意外と難しいので、こうなるわけだ。


 後輩や異性の場合は距離感を計るのが、一番大切だと言える。近すぎても遠すぎてもいけないので、その感覚自体をぶっ壊しながら、興味はないけど優しい人のポジションをとる。練習しておくと良いだろう。


 年配で出くわす人も面倒だ。エレベーターや道端で会っても話すことが無いし趣味もあうはずがない。基本型は挨拶と天候から。


「おはようございます。今日は暖かいですね」


「ああ、おはよう。少し暖かくなってきたね」


「朝晩は寒いですが、日中は少しだけ暖かいですよね」


「ああ、今年は寒かったからね」


 何回、暖かいといえば気が済むのだろうか。寒いや暑いは誰でも感じる当たり前の感覚だが、少し暖かいという微妙なフレーズは人を安心させる。


「しかし……本当、今日は暖かいですね」


 これでいい。どんなに微妙でも天気の話をしとけば問題ない。話すことがないなんてお互いに分かってるから大丈夫だ。


 日中に日が当たると少しだけ暖かいという情報には何の価値もない、そう思うかもしれないが違う。何度でも暖かいと言って良い。


 最後は飲み会で、全員と楽しくやっている感じを出しながら、いい感じにほっておいてもらう方法を教える。


「○○さん、飲んでますか?」


「あら、お疲れ様。○○さんこそ飲んでる?」


「飲んでますよー。飲み放題ですから、じゃんじゃん飲んでます」


「おっ、○○くん、飲んでる?」


「はい。頂いてます」


「ほら、もっと沢山飲まないと」


 こうやって会場をぐるぐると回るだけでよい。言っておくと、本気で皆がちゃんと飲んでいるか調査しているわけではない。


 パトロール隊員でもないし、何なら無理して飲まないほうがいいと思っている。だが、こうやって会場をうろうろしていれば、居なくなっても問題にはならない。


 なんなら、途中で牛丼でも食べてきても問題ない。最後のシメや会計はいないと不味いことになるが。とにかく全員に飲んでるか聞くことが大事なのだ。


 何か知らんけど、これで上手くいく。

 

 以上で今回のテンプレ会話術は終わりにする。実践するかどうかは各人の判断にまかせようと思う。




 


 

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