2020.12.20 期末テスト

 今年一番の寒さを更新。コロナが都内で800人を超え、過去最多。どんな記録も塗り替えられる、人々を追い詰めるように。


 少しずつ期末テストの結果が出て、一喜一憂している楓ちゃん。国語はほとんど勉強しなくてもクラスで三位だとか。


 我が家の家計を気にして、ランクを落としてまで公立高校に入った楓ちゃん。入学したころは、学年トップを目指すとも言っていた。


 結果、中の上らしい。世の中そんなに上手くいかない。薄給で単純そうな仕事でも巧くやることは難しい。それほど、頂点を目指すのは大変な覚悟と忍耐、努力と根性が必要なのだ。


 何処に行っても何をやっても一生、平均点に収まる体質かもしれない。俺が電撃小説大賞に応募したときも、選評はオールBかB+だった。一度や二度ではなく、毎回だ。好きでやることですら学生時代に貰う成績表と同じ結果。


「だから、言っただろ?」


「……何をしにきたのよ」


 俺はわざわざ娘の部屋におしかけて、どや顔で言った。だから、アドバイスした通りになっただろうと言いに来たのだ。


「慰めにきたわけでも無くて?」


「うん。だから用件は済んだよ」


「……」


「楓ちゃんが、今後の人生でくじけたり失敗したり、傷付いたりする度に、パパはやってくるよ。そして、こう言うんだ。だから言っただろ、パパの言う通りだろって」


「なかなかの最低ぶり……もう、夕飯作ってやらないからね」


「ええっ、酷い、酷すぎるよ。パパの楽しみを全部奪うつもりか!」


 俺が高校に入学した頃、一発目のテストで学年四位を取ったことがある。それから先、成績はぐんぐん落ちていった。人は落ち着く場所を見つけては、そこに居座る生き物なのだ。


 良いこともあれば悪いこともある毎日。中位の成績は居心地がいい。そして努力と友情、勝利は永遠のテーマであって、簡単に得られるものではない。


 まず、言いたいのは「友情」について。よくクラスに友達が居ないとか、上手く馴染めないとか人間関係の悩みを聞く。


 友達は居ないのが当たり前だと思う。人生を旅に例えるなら、学校やクラスはたまたま乗り合わせたバスにすぎない。


 目的地が同じバスなら友達になれると思うかもしれないが、それも違う。乗っているのは産まれた年と地域が同じだけで集められただけの他人である。


 自分の意志で乗ってもいない、見も知らぬ連中が友達のはずがない。いきなり乗ったバスが安心、安全、賑やかで楽しいわけがないのだ。


 学校は、ただ黙ってバスに乗る訓練をする場所である。公共の場で喧嘩や席の奪いあいをせず、見た目は仲良く振る舞うという訓練の場だ。


 学校の勉強には意味がない、それも訓練だとすれば大いに意味がある。人は必ず間違えるし、ミスをし、失敗を繰り返す。


 社会に出れば価格や伝票、品質表示や決算書類、すべてに間違いは許されないのが当たり前になる。ちょっとしたミスでクビになったり殺されたりする可能性だってある。


 問題を解くための努力。ミスをなくす為の注意力や観察力は最低限、必要なことだ。本当は、そんなことは分かっている。


 だから落ち込んでいる娘を見るのが愛おしいのだ。昨晩の溜まっていた洗い物を済まし座っていると、嫁さんが俺に言った。


「まただよ! また水がチョロチョロ出てたよっ、ちゃんと閉めてって言ってるよね。いつもいつも」


「じ……自分が完璧だなんて思わないでくれる? 言っておくけど俺と結婚した時点で、完璧じゃないからね、もう失敗してるからねっ!」


「……」


 言っていて悲しくなったが、みんな笑ってくれたので良かったと思う俺だった。


 


 




 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る