2020.12.16 師走
「寒い寒い寒い」
まだ薄暗い6時半、夜明けの毛布にお別れを言った。それほど愛おしいのだ。最近は週の半分くらい、漫画か携帯を見ながら
「また、寝ちゃったのか。よくこんな寒いところで寝れるな」
「ああ、おはよう。シャワー浴びる」
個人で携帯を持つ時代になって、子供たちの遊び方も変わったようだ。いつでも連絡が取れるため、スケジュールいっぱい遊ぶのだ。
ある日は朝から家族とイオンに行き、買い物、床屋、昼飯を済ませて帰宅。すぐに友人Aとプールに行く。
スイミングスクールを辞めてから、たまに泳ぎたくなるらしい。帰宅後、友達Bの家に遊びに行き、ゲームやアニメを見て夕飯をご馳走になって帰ってくる。
それからドラマを観たり、塾の宿題をしたり、体力の100%を使いきって、気絶するように寝落ちする。もうデカくて布団まで担いでいけないから、毛布をぶん投げて放置するのだ。
後で布団に行くんだぞ、というと一応は返事をするので仕方ないが、放置だ。このパワーを世界平和に使えばいいのに、と思う。
一昔前なら、こんなスケジュールはたてられない。連絡がとれないので捕まらないし、サクッとLINEで気楽に誘うことも出来なかった。
仕事も、とくに営業職にも同じ状態になってきている。だが、こちらは悪趣味で悲惨な活用法だといいたい。
忙しいときは100%でも、120%でも仕事はするが、毎日毎日そんなことを強いられてはたまったものじゃない。
手を抜かないのは当然だが、疲れてもいけないし体調だって崩せない。今日の無理が、明日の俺を助ける無理なら構わないが、明日の俺をヘトヘトにする無理なら、それは無理だ。
ちょっと何言ってるか分からないので、こう言おう。腹八分にしておくんだ。誰もサービス残業なんかしてないじゃないか。
また今度、遊べばいいじゃないか。時代や情報に振り回されてはいけない。誰よりも真面目に仕事に向き合ったとしても、売上が跳ね上がることはないし、自分だけ一目置かれたり評価されたりはしない。
違う部署の人間から見たら、俺なんかゴミみたいなあつかいだ。昨日、内線で十も年下のデザイナーに、店に商品画像のデータ持って行きたいから、空きCD貰えない? と聞いた。
「ありますけど」
「暇な時でいいから、俺の机に置いておいてくれない?」
「私が、持っていくんですか。取りにこないんですか」
「うん。急がないし、帰りに三階寄るでしょ。ついでの時でいいから。年内でいいんでw」
こんな俺でも、師走は忙しいのだ。流通業界の営業は肉体労働なので、スーツは着ているが「作業着」と呼んでる。
入荷した商品に値札やハンガーの準備作業をしていたら、デザイナーが降りてきた。手には何も持っていない。
「みんな内線の会話聞いていたみたいで、石田さんのこと怒ってましたよ。取りに来ないのかって。データが重いならファイルで送る方法教えましょうか?」
「いいです。家にあるから大丈夫になりました」
バカじゃないの、降りてくるならCD持ってこいよ。みんなで聞いてるほど暇なら、少しは手伝ったらどうだ。
デザイナーとか言ってるけど、毎年毎年、焼き回しのクソみたいな企画しか出来ないくせに……偉そうだな、おい!
上司にも平気でため口をきく根性。デリカシーのない連中。コミュニケーションとろうと、飲みに誘おうとすると走って逃げるやつら。そんな時だけ、行動力あるやつら。
忙しかったり、疲れたりすれば口に出してしまいそうになる。ただ黙ってひとりで仕事をこなしたほうが気分もいい。
「……別にキーミを求めてないけど♪」
颯ちゃんがシャワーを浴びながら、ご機嫌に歌っている。寒いのに豪快に浴室から飛び出して体を拭いている。
少しも寒そうにはしていない。誰のせいでもない、ただ疲れや忙しさを誰かのせいにしたかった俺に、素っ裸の息子が言った。
「ドールチェアーンガッバーナのっ、香水のせいだねっ!!」
「……そ、それだね」
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