2020.12.15  閉店セール

「ねえねえ、駅前のレンタル閉店するらしいわよ。来週から閉店セールだって」


 嫁さんの情報を聞いてどよめき出す子供たち。四~五年前にレンタルショップの閉店セールは経験しているが、最後には爆安になった記憶がある。


 そんなわけで閉店は来週だが、今週の土曜日に家族で買い出しに来てしまった。バラバラの時間に家を出たのに、いつの間にかみんないる。仲が良い家族やな。


 楓ちゃんが言う。「前はガッシュのアニメ、爆買いしたんだよね。あとは漫画とか。颯ちゃんは何か欲しいのある?」


「おれね、ハリー・ポッター全部と、ファンタスティックビースト全部とね、漫画の呪術迴戦とね、漫画のニセコイとね、音楽で、世界の終わりを全部買って欲しい」


「……強欲っ!」


 ハリー・ポッターもファンタスティックビーストもテレビでやったばかりじゃないか。ちゃんと録画してあるから、いらないだろう。


「呪術迴戦は売り切れてて、無かったよ。テレビでアニメやってるからじゃん。だから、まだハリー・ポッターが売れ残ってるの、すごくね?」


「……えっと、テレビでやってる漫画が完売してるのは、別媒体だから。漫画でも読んでみたいなぁって思うからだ。テレビでやった映画が売れ残ってるのは、何がすごいんだ? 何もスゴくないだろ、もう一度見たいなら見ればいいだけだ。全く同じなんだから」


「ぜんぜん違うでしょ、映像が綺麗だしパッケージも貰えるんでしょ。友達にも貸せるし、誰かが来たらこのパッケージを棚から出せるんだよ」


「全部出来る気がするが……」


 わかる。自分だけのポッターを棚に並べたいんだ。単純に好きなDVDをコレクションしたいと考えるのは自然なことだ。


 俺もスターウォーズやガンダム、いや、カセットテープやCDなんかを棚に並べてニヤニヤしていたじゃないか。その棚を棚にあげて息子を否定出来るのか。


 聞けば棚卸し最後の一枚。棚からぼた餅の閉店セール、棚上げは出来ない。棚、棚、棚のコンボだ! (意味不明)


 店員さんらしき人が、小さな棚に漫画を並べていた。ここからも取っていいのか聞いたら、ボクが買うやつですと言われた。見ると段ボールで買ってく連中があちら此方で小山を作って吟味しているようだ。


 転売ヤーか、ミニレンタル部屋を作るつもりじゃないだろうか。なんて強欲うらやましいな連中だ。


 感覚がおかしくなっているのは俺のほうかもしれないと思った。家で録画が見れるのに、何故欲しいのかなんて、コレクターに対して愚問だった。


 買ってくれと、ねだる男には自分の世界がある。例えるなら空をかける一筋の流れ星、ポンポンポーンっと(EXIT風)買うかなぁ。


「で? ハリポタ何作売ってたんだ」


「六作まであった。買ってくれるの? やった、すげえ!! パパカッコいい、マッチョ」


「うん、見た目ほどマッチョじゃないけどね。本当はなよなよ。そのかわり、クリスマスプレゼントは無しでもいいね。ちなみにパパが子供のときはクリスマスプレゼントといえば靴下だったぞ」


「えええ……どんな顔して貰うんだよ。くつ下の中に本物の靴下が入ってる時」


 こんな顔。俺の無表情を見て爆笑する颯ちゃん。そのテンションに乗って漫画とCDも持ってきた。早めのクリスマスがやってきた。


 颯ちゃんだけで五千円近くかごに入っている。ニセコイだけで25冊。楓ちゃんがとなりの怪物くんとスケットダンスをドサドサ。


「颯ちゃんが買うなら私もいいよね?」


「……だよね。女にも自分の世界があるよね。わかる」


 人は買わずに後悔するより、買って後悔したい生き物だ。俺もDVDスティーブン・キングのドラマシリーズ、ゴールデンイヤーズとザスタンドの四本と映画スタートレックを入れた。


 嫁さんはCDを何枚か。これからレンタル出来ないと思うと不便だわといいながら、金を出してくれた。膨れて重いエコバッグを皆で分けて持ち帰った。


 みんな満足した顔をしていた。俺もへそくりを出さないですんで良かった。こんな先行きの分からない時代でも、関係ないのだ。バラバラに来た俺たちは一緒に帰った。



 

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