2020.12.11 いじめ(1)

 小学五年の終わり、六年生だったろうか。いじめにあったことがある。自分でも忘れたい事実だが、これは失敗から学ぶための告白である。


 裏門の塀に四年のイキった連中が座っていた。五~六人でゲラゲラと盛り上がっていた。ジャングルジムと同じくらいの高さだ。


 俺はクラスではそれなりに人気者だったと思う。お調子者の部類で。だから、クラスの女子は注意したほうがいいよと俺に言った。


 先輩面せんぱいずらをして、校則違反だから降りろと言うと、予想外の言葉が返ってきた。


「あん? 何だてめえ。うっせんだよ!」


「どっか行けよ、ボケ。登ってこいや」


 三月産まれの俺と学年が一つ下の連中に、体格の差はなかった。だが、学年が上の人間を敬う神経とか、校則を出されたら誰も文句は言えないだろうという、不安要素満載の正義という感覚的なものが俺の唯一の武器だった。


 そんな武器は無い。はなから通用する相手ではなかったのだ。まさか学年いっこ下の連中にボコボコにされるとは思わなかった。


 いじめはそれから始まった。連中は一人で歩いている俺を見つけると、五人位で俺を追い回し攻撃してきた。強打ではないから、辛辣なイメージではないかもしれない。


 だが精神的なダメージは相当なものだ。足や尻を蹴られたり、肩や背中をパンチされたり。俺は足を止めずに涙をこらえて、やめろと言うだけだった。


 掴みかかったりする勇気が無かったのだろう。勝負したいなら、喧嘩じゃなく遊びやゲームでケリをつけようと思った。


 別の日、ブランコからの靴飛ばし。校庭で俺と友人は、二対二で勝負を申し込んだ。負けたら、絡んでくるんじゃないとか何とか。


 惨敗だった。結局、またボコボコにされたので俺は下級生のリーダーの髪を掴んで引っ張り回した。もう、そうするしかなかった。


 年下にいじめにあっているのを認めたくなかったし、兄弟や家族、クラスの誰にも知られたくなかった。それほど屈辱だった。


 そんな思いから、わざわざ人の少ない道で帰宅するから、余計に攻撃にあうのだったが。


 リーダー格の○池の髪を力一杯握って、引きずり回した。子供パンチの応酬をモノともせず、やつを泣かせた。校庭で喧嘩していると、ひとまわり身体の大きな男が校門の前に立っていた。


 ○池の兄貴は生徒会長だったのだ。俺は息を荒げて泣いて帰る○池を見ていた。やつの兄貴は何も言わず、手も出さなかった。


 それでも恐怖と悔しさと、やるせなさでいっぱいになった俺は涙が止まらなかった。情けなくて吐きそうになった。


 その後も、四年の軍団は俺を見るたびに、バーカとか死ねとか言ってきた。何人か集まると、俺を追いまわした。


 何日もそんな日が続いたが、相手が一人なら、運動能力に差はない。気がつくと俺は、たまたま出くわした四年の自転車のカゴを掴んで、思い切り倒していた。


 俺と同じくらいの体格。名前はたしか本○だったか。睨みあいでは俺に分があった。そいつは一人では何も出来ないカス野郎だった。


「あやまれよ」


「……や、やめてよ。来ないで!」


「はあ? なんだ、それ」


 本○は柔道の一本背負いのように俺をつかんで持ち上げた。俺は踏ん張って、変な抱き合うような姿のまま、二人は膠着した。


「お前、泣いてるのか?」


「……や、やめてよ、やめてよ」


「何もしてないじゃないか。俺は」


 言い終わる前に、近所の叔母さんたちが集まってくる。自転車の倒れる音と、いじめられている男の子の声を聞いて。


「あんた上級生のくせに、いじめなんて酷いわよ。泣いてるじゃない」


「どこの家の子? 親に連絡するからね」


「……」


 その日から、いじめは違う局面を迎える。おかしな構図がうまれ、俺は世間でいう、いじめっ子のレッテルを貼られることになるのだ。


 生徒会長の弟を殴り、その取り巻きを見つけては脅すという、幼稚な悪者。それが俺のようだった。 


        つづく

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