2020.12.10 4Kテレビ

 六年しか使っていないテレビが映らなくなった。前から電源を入れても、真っ暗なことは何度かあった。そんな時は電源長押し、再起動、コンセントをはずす。


 つけたり消したりしていたら、いつの間にか治るという不思議なシステム。おそらく中国製の液晶が悪いのだろうが、保証期間は五年と相場が決まっている。


 今時は、うちにもテレビは沢山あるので、二三日は放置していた。どうせすぐ、映る日がくると信じて。ため息まじりに嫁さんが言った。


「もう、無理ね」


「思いきって、4Kにするってのはどうかな」


「……せめるわね。でも、一回でも4Kに手をだしたら、二度と普通のテレビに戻れなくなるらしいわよ」


「戻れなくなるのか。っていうか、何処に向かってるんだ。俺たちは」


「そんなことより……とにかく戻れなくなるらしいわよ」


「……」


 確かに、そんな噂を聞いたことがある。だからと言って昨日の俺をアップデートしなければ、明日の俺は今日の俺だ。


 ちょっと何言ってるのか分からないので、結論を言おう。4Kは綺麗。そして、最近のテレリモにはアベマ、ネトフリ、アマプラ、ユーチューブなどのボタンが標準装備されている。


 貧乏性だからスカパもWOWOWも入会する気はないけど、いつでも準備は出来ている。


 ハードを繋いでナビで、「映画」を選択すれば放送される映画は全部、勝手に録画してくれる。無線ランを繋げばユーチューブのゲーム実況も、超美麗なグラフィックで見れるのだ。


 使わない理由がない。普通にさっさと買い換えるべきだったと思う。テイルズおぶ楓ちゃんは新作のpvを見て、綺麗なグラフィックに驚いていた。


 アニメもすごく綺麗。颯ちゃんは、さっそくファンタスティックビーストなる映画を見て、感動したようだ。


「俺、ファンタスティックビーストとハリー・ポッターは全部集めたい、DVDで。そんでアニメとかは嘘だから、もうあんま興味ない」


「……!」


 まさかと思うが、息子はハリポタは本物で、他のファンタジーやアニメは偽物だと認識してしまったのか。家族の中に不穏な空気が流れた。


「あのさ、颯ちゃん。ハリポタもファンタスティックビーストも嘘だよ」


「それは知ってるけど、テイルズとかフォースとか念とか、チャクラとかあるよね」


「うんうん」


「あれ、全部魔法だから」


「えっ……だったら何なん」


「だからさ、全部魔法なのに、色んな名前でよんで格好よくしてるだけだから、意味ないし、くだらないってこと」


 それを言ったら、すべてのファンタジーもジャパニメーションも、オタクの好きな娯楽は何もかも意味がないだろう。くだらないだろう。


 テイルズシリーズを愛するあまり、フェスに行く楓ちゃんも、ファンタジー小説を書いているおっさんの人生も、何の意味もなくなってしまう。


 全力で息子を説得しながら、何の話か分からなくなってしまったが、あやうくオタクグッズがゴミになるほど……それほど4Kテレビは素晴らしい。そういう話でした。






 

 

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