第17話 大人になっても友達で
「ふぅ……今日もとっても美味しかったわ。ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
恒例となった食後のティーブレイク。
猫舌の冴木先生の為に少し冷ました温かいお茶を飲みながら、一息ついていた。
「将来、長谷川君がお店を出したら必ず通うわ。」
いや、そんな真面目な顔で言われましても。
「もしお店を開いたとしても、先生にはお店ではなくプライベートで食べてもらいたいですけどね。」
対価をいただいて、みたいなのはちょっと違うと思うんだ。
そんな気持ちで軽く言ったのだが、先生は頬をほんのり染めていた。
「そ、それは、その……どういう、意味なのかしら…?」
「え?……あ、あぁ!」
何のこっちゃと思ったけど、よくよく考えたらプロポーズじみた事を言っていたと気付き、慌てふためく。
「ち、ちがっ!そういう意味じゃなくて、いやそういう意味でもあるかもしれませんけど、じゃなくて!!」
もう駄目だ。
自分で何言ってるか全然わかんない。
「お、落ち着いて長谷川。大丈夫、ちゃんとわかってるから。」
「あ…はい。」
頬を染めながらも苦笑して大人の反応を見せる先生。
それに比べて自分は子どもだな、と切なく感じた。
「大人になっても友達でいましょう…って事よね。」
「………はい。」
間違ってはいないんだけど……なんだか微妙な気分だった。
でも、ドヤ顔で"名推理でしょ!"みたいに言う先生の言葉を否定する事はできなくて、僕は力なく頷いた。
ズズ……と温かいお茶を啜る。
はぁ、心地良い一時だ。
「はふぅ……」
目の前では僕と同じようにお茶を啜ってリラックスしきっている冴木先生の姿。
何この可愛い生き物、どこで売ってんの?
餌代込みで月50万までなら出すぞ(真顔)
「長谷川君は料理上手で本当に羨ましいわ。昔から努力してきたのね。」
「ええ、まぁ……努力とは思ってないですけど。ただ小さい頃から作ってただけですし。」
「それが凄いのよねぇ……お昼はお弁当を作っているのかしら?」
「はい。基本的には弁当ですね。たまに学食も行きますけど。」
ほー、と感心した様子の先生。
可愛い。
「先生はお昼はどうしてるんですか?」
やっぱ学食かな?
先生でもよく使ってる人いるし。
「私はお弁当よ………コンビニの。」
先生が遠い目をして言う。
何故ちょっと見栄を張った。
「ま、まぁ…コンビニ弁当も美味しいですよね。」
切ないけど。
「学食は行かないんですか?」
「行かないわ。」
ばっさり。
「どうしてです?」
「私が行くと生徒の皆が食べ辛くなるでしょう?空気を悪くしてしまうもの。」
「いや、そんな事ないでしょ。」
「あるのよ。一度だけ行った事あるけど……皆ソワソワしてるし、チラチラこっち見てこそこそ話すんだもの。」
それは美人の冴木先生が気になって緊張してるだけなんじゃ……
「別に空気を悪くしてるわけではないと思いますよ。」
「でも、私の周りだけ誰も座らないのよ。」
「それは、先生の隣に座るのが緊張するからだと思いますよ。」
「他の先生の周りには普通に座るし、先生と話しながら食べている子も多いわよ。」
「あぁ、すみません。冴木先生の隣に座るのが緊張するんだと思いますよ。」
「……何故かしら?」
先生は可愛らしく小首を傾げた。
「冴木先生が美人だからです。」
「……え?」
今度は目を丸くした。
「冴木先生は飛び抜けて綺麗だし、大人っぽいし、学校ではクールな性格で有名なので……隣に座るとかはハードルが高いんじゃないですか?」
「で、でも野口君は誘ってきていたじゃない。」
「野口は特別というか…怖いもの知らずというか。」
「怖いもの……」
「あぁすみません!言葉の綾ですよ!とにかく、先生の近くでご飯とかは、先生をよく知らない生徒からしたら緊張するって事です。」
そして学校でのクールな先生をよく知っている生徒は、更に近寄り辛いだろう。
これは言えないけど。
「そういう事だったのね……」
沈んだ表情も綺麗だ……じゃなくて!
「まぁまぁ、これで誤解も解けた事ですし、今度から学食も使えるじゃないですか。」
「ぅ…でも……」
怯えるような表情。
ちょっとしたトラウマになってるな。
「…やっぱり暫くはやめておくわ。理由はどうあれ、和気藹々とした空気を壊すのは間違いないのだもの。」
まぁ、ある意味ではそうかもしれないけど。
「なら、いつか一緒に学食で食べましょうよ。」
「……そうね。それは良いわね。」
先生は強張った顔をほぐし、微笑んだ。
「なら先生は、基本的にコンビニのお弁当とかを食べてるわけですね。職員室で食べてるんですか?」
「……いいえ、職員室ではあまり食べないわ。」
「え……何でですか?」
お弁当とかを持ってきてる先生は職員室で食べてるイメージなんだけど。
「だって、毎日コンビニのお弁当で済ませてる姿なんて、見られたくないもの。」
先生は恥ずかしそうに口を尖らせた。
そういう理由なのね。
「じゃあどこで食べてるんですか?」
「部室よ。」
「部室?……え、どこのです?」
「お裁縫部よ。私、そこの顧問なの。」
「裁縫部?」
「いいえ、お裁縫部よ。」
何がどう違うんだ。
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