第13話 美少女同級生は小動物っぽい
「あー……だる。」
「それ今日何回め?新学期早々そんなに気が抜けてたらこれから先どうなるのさ。」
休み時間、机に突っ伏す野口に呆れながら声をかける。
僕の前の席である野口はこちらを振り向く事もなく唸った。
「うー……だってよ、ついこの間まで春休みで自由を謳歌していたんだぜ?いきなり頭働かせろって言われてもなぁ。」
「いや、学校ってそういうもんでしょ。あといきなりじゃないから。もう春休み明けて1週間経ってるからね。」
「何で春休みって終わっちまうんだろ。一生春休みで良いのに。」
「駄目だこいつ…」
今日は一段と気が抜けているようだ。
「何か随分脱力してるけど、何かあったの?」
「んぁー…何かあったっつーか、何もないっつーか。」
「?」
「今日、数学ねぇじゃん?」
その言葉に脳内で本日の時間割を思い浮かべる。
うん、確かに今日は数学がない。
「そうだね。」
「てことは冴木先生来ないじゃん?」
「まぁ、用もないのにわざわざ来ないだろうね。」
「冴木先生に会えないじゃん?」
「廊下でばったり、とかもなければそうだろうね。」
「辛いじゃん?」
「いや、そこはよくわかんないけど。」
「何でだよっ!」
「うわっ、ビックリした!」
急に振り返らないでよ。
隣の田所さんも読書の邪魔されて睨んでるから。
横断歩道を渡る身障者の後ろで真似をしている奴を更に後ろから盗撮している奴を見るような目で睨んでるから。
「冴木先生は綺麗だろ!?」
「う、うん。」
「綺麗な人に会えると嬉しいだろ!?」
「まぁね。」
「会えないと辛いだろ!?」
「だからわかんないって。」
会えたら嬉しいけど会えないと辛いってのは違うでしょ。
彼女じゃないんだから。
「長谷川!お前はそれでも男か!それでも付いてんのか!?」
「一応付いてるよ。」
「チクショウそうだった!無駄に立派なの付いてんだった!!」
やめて。
田所さんが何故か頬を染めてチラチラ見てるから。
そんな事大きい声で言わないで。
野口め、入学直後の宿泊研修の風呂場で見て以来、ちょくちょくネタにしてきやがって。
「まぁ、去年までは担当ですら無かったんだから、週に3回も会えるだけで我慢しときなよ。」
「そりゃそうなんだけどさぁ……」
「ていうか、あんなに冷たくされておいてまだそんな事言えるのが凄いね。」
「馬鹿、あれが良いんだろ!」
馬鹿は君だ。
「君は相変わらずだね………ん?」
頬杖を付きながら熱弁する野口を見ていると、後ろから誰かに肩をトントンと叩かれた。
誰だ、休み時間の野口との下らない会話を邪魔する奴は。
いつでも邪魔しに来てくれ。
「あっ、ご、ごめんね長谷川くん…お邪魔しちゃったかな。」
振り向くと、そこにはアタフタしている美少女がいた。
「大丈夫。いつでも邪魔してくれて良いよ、泰野さん。」
「そ、それはそれでどうなのかな……」
戸惑うように苦笑している彼女は、同級生の
泰野さんとは同じクラスになった事はないが、昨年の夏に起きたとある出来事をきっかけに友達となったのだ。
それ以来、たまにこうしてわざわざ違う教室へ顔を見に来てくれたりするようになった。
「お、泰野さんじゃん。お疲れーっす!」
「こんにちは野口くん。」
野口と僕は去年も同じクラスだった為、比較的僕と仲の良い野口も泰野さんと話す機会は結構あった。
最初は泰野さんと話すだけでカチカチに緊張していて面白かったなぁ。
ちなみに何故野口が緊張していたのかというと、泰野さんが学年でもトップクラスに可愛いからである。
明るい茶髪のショートボブに女性なら誰もが羨む小顔。
小動物のようなパッチリ眼と血色の良い厚めの唇。
プルンとした唇の色と榛色の瞳を際立たせる白い肌。
身長は低めなのに全体的にスラッとしており、寸胴な印象を与えない。
胸部だけ身長に似合わず発育しているのもその一因だろうと思う。
というか、その身長にその細さでその胸を持っているのにアンバランスに見えないのはどういう神秘なのだろうか。
僕も最初に彼女を見た時は思わず二度見をしたくらいの美少女。
しかも穏やかでちょっと天然だけど凄く優しい娘である。
野口が1番苦手とする相手だった。
まぁそんな野口も何度か話すうちに自然に接するようになったんだけどね。
「それで、今日はどうしたの泰野さん?」
「えっと…特に用事とかないんだけど……長谷川くん、元気かなって。」
モジモジしながら両手の人差し指をツンツンしている。
やめてそれ。
その仕草をリアルでやって似合ってるのとか見ると可愛すぎて頭がオーバーヒートするから。
「もちろん僕は元気だよ。ていうか、スマホで連絡取ってるじゃん。」
何ヶ月も友達やってれば当然連絡先も交換しているわけで。
今でも1週間に1回はメッセージのやり取りをしている。
「う……それはそう、なんだけど……」
やばい、何か落ち込んじゃってる。
詩穂ちゃんファンクラブ(非公認)から報復されるかもしれない。
現に教室内から幾つかの強い視線を感じている。
おい、このクラスにもこんなにファンクラブ会員いたのかよ。
と思ったら前の席から一際強烈な負の視線を感じた。
野口タス、お前もか。
「ま、まぁ直接会えるのは嬉しいけどね。僕もちょうど話したいと思ってたところだし。」
「え、ほ、本当!?」
「うん、ほんとほんと。」
「よ、良かったぁ……」
泰野さんが安堵の笑みを浮かべる。
良かった、これで報復を受けずに済む。
………おい、何で視線が強くなってるんだ。
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