第12話 好物はポテトサラダ

「ただいま……ふぅ、さてと……」


帰宅してすぐにスマホを取り出す。


『ただいま帰りました。今から夕飯を作りますので、できたら連絡しますね。』


送った瞬間既読がついた。

早すぎだろ、暇人か。


『料理するとこ見たい。』


「え…」


指が止まる。

既読がついて数秒の間。

続けてメッセージがきた。


『だめ?』


ポップな猫が壁から顔を出してションボリしているスタンプ。


「何でこういうところで漢字じゃなくてひらがななの……可愛すぎかよ。」


『駄目じゃないです。』


精一杯の抵抗として漢字にしてやったぜ。






「お邪魔します。」


「いらっしゃいです。」


冴木先生が家に来た。

タイトなデニムパンツと白いノースリーブのブラウス。

しかも胸元にちょっと切れ目が入っててちょっと上から覗けば谷間が見えそうなやつを着ている。


「エッッッッッ!!」


何でノースリーブなんて着てるんだ!

誘ってるのかこんちくしょう!

万歳して下さい!!


「ん?何か言ったかしら?」


「いえ、何でもないです。」


落ち着け僕、ステイクールだ。

違うよ、僕は変態じゃないよ。

仮に変態だとしても(ry



「…今日はごめんなさいね。」


「いえいえ、お気になさらず。メニュー適当に決めちゃったんですけど大丈夫ですか?」


「えぇ、長谷川君の料理なら何でも嬉しいわ。」


期待が重すぎる。


「ちなみに、苦手な食べ物とかあります?」


「……ピーマン。」


「可愛い。」


「えっ……」


先生が頬を染める。

やばい、つい本音が出てしまった。


「あ、いやその…すみません。」


「い、いいえ……」


モジモジする先生も可愛い……いかんいかん、これでは話が進まないよ。



「えっと、今日はピーマンは使わないので大丈夫そうですね。それじゃ作りますから、適当に座って待ってて下さい。あ、紅茶はないんですけど、緑茶で良いですか?」


「あら、ごめんなさいね。緑茶も好きよ。」


「良かったです。」


ソファではなく椅子に座った先生にお茶を出す。

そこに座るってことは本当に料理する姿を見るつもりか。

……緊張する。






「はい、できましたよー。」


「ふわぁ……とっても良い匂い!」


ふわぁってなに。

萌え殺す気かよ。


「割と上手くできたと思います。」


「割とどころか、手際も良くてビックリするくらい上手だったわ。」


今日のメインはカルボナーラだ。

付け合わせにポテトサラダと春野菜のコンソメスープ、そして椎茸に海老のすり身を詰めてオーブンで焼いたものを用意した。

椎茸は隣人の竹原さんの奥さんにいただいたものだ。

竹原さん一家は僕が一人暮らしだと知って以来、色々と良くしてくれている。


「先生の口に合うと良いんですけど…それじゃ食べましょうか。」


「えぇ、いただきます。」




「ご馳走様でした。」


「お粗末様です。」


「とっても美味しかったわ、長谷川君。」


「良かったです。」


「カルボナーラが凄く濃厚で美味しくて驚いたわ。」


「白身を使うと水っぽくなってしまうので、僕は黄身だけしか使わないんですよ。」


「へぇ…そうなのね。」


これは知ってる人もいっぱいいるから、そこまで特別な事じゃないけどね。


「椎茸も美味しかったし、とてもオシャレだったわ。」


「海老と椎茸ってなかなか合いますよね。チーズとか乗せても美味しいですけど、今日はメインがカルボナーラだったのでチーズは乗せませんでした。」


「なるほど。色々考えてるのね。」


冴木先生が感心したようにふんふんと頷いている。

そんな顔されたら調子乗っちゃいますよ。



「でも1番好きだったのは、何といってもポテサラだわ!」


立ち上がりながら目を輝かせて前のめりになる。

胸元が…胸元が……っ!!


「ホクホクのジャガイモと優しいマヨネーズが相まって……あぁ……」


先生が恍惚とした表情で手を組んでいる。

その表情、ちょっとエロいです。

もっと下さい。


「先生がポテトサラダが好きだと言ってたので……折角だから作ろうかなって。」


「ありがとう長谷川君。とっても嬉しいわ。」


頬を染めて優しく笑う先生が綺麗すぎて、暫し見惚れてしまった。

惚けた僕を見て先生が首を傾げる。


「?……どうしたの?」


「い、いえ何でも……とにかく、先生に喜んでもらえて良かったです。」


慌てて笑顔で取り繕う。


「本当に素晴らしかったもの……こんな料理をいつも食べられるなんて、羨ましいわ。」


先生が苦笑する。

自分の作る料理を思い浮かべてるのかな。

1度食べてみたい気もする。






「………あの、先生。」


食後の温かいお茶を啜りながら、ホッとしている先生に話しかける。

猫舌の先生の為に熱くなりすぎないようにしたものだ。


「何かしら?」


「その、ものは相談なんですが……」


「?」


勇気を出せ、僕。


「これからも…その、時々で良いので……一緒にご飯、食べません…か?」


「え……?」


先生が唖然としている。

やばい、引かれたかな?


「あの、えっと……祖父が亡くなってからずっと1人で食べてて、料理作っても他の人の感想とかないと作り甲斐が無いなーって思ってて……それで…ですね……」


言葉が尻窄みになる。

これで嫌われたらどうしよう。


「その……無理にとは言わな「良いの…?」……え?」


「ほんとに……いいの?」


先生が揺れる瞳で僕を見つめている。

目が合うだけで吸い込まれそうだった。


「い、良いに決まってます!ていうか僕からお願いしてるんですから!」


「そっか……なら、たまにご一緒しようかしら。」


先生が頬を染めて照れたように小さく俯きながら、そう言った。

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