プロローグのための前菜 ~マリナの話~
西に存在するバラの国。赤と緑のコントラストが国中を彩る美しい国。黄金の髪と白い肌が太陽にきらめいて鮮やかな青と緑の瞳が赤いバラを映す。
そんな鮮やかな国に美しい姫が生まれた。
黒装束の女性たちは姫をひとたび見つめると国王に告げた。
「この娘はすばらしい才能をお持ちです」
「なんの才能だ?」
「万物を操る才能です」
「なんと……!」
威厳なる王は驚く
「彼女はこの国の歴史を変えてしまいますよ……おお!素晴らしい!」
感動に震える女を横目に、赤ん坊を産んだ自分の妻のそばに跪いた。
「大丈夫か、リヒナ」
「ええ……。ラヴドアール、大丈夫よ私は。ねえ、名前……何にする?」
「うーん、……マリナ」
「マリナ?素敵な名前ね……」
リヒナは自分が抱える赤ん坊を夫に手渡した。不器用な威厳者は優しくそれを抱えて微笑んだ。
「おお……リリナとは違うな。……消えてしまいそうだ」
「それでも、強く咲きますよ。あなたの娘ですから」
「そうだな」
威厳者はまたその赤い目を美しい妻に向けた。そしてまた微笑む。
「私は民にこのことを伝えたい。しばらく休んで、皆の前でマリナを見せよう」
「ええ……」
リヒナは静かに目を閉じた。
ラヴドアールはマリナに口づけをした後、部屋を後にした。
彼に黒装束の女が近づいて、声をかける。そしてその女に複数の老婆がついていく。
「陛下、」
「なんだ?エリシカ」
「後ほど、折り入ったお話をしたいのですが……」
「今は話せないか?」
「私は構いませんが、マリナ様のことについてです」
「……後で玉座の間に来い」
荘厳な金が男の威厳を支えるその椅子に王は座っていた。低い段差を二つ隔てて女たちは跪いた。
「陛下、我々にマリナ様を育てさせていただけませんか?」
「なぜだ、育てるのはリヒナの役目ではないか」
「しかし、マリナ様は普通の人間ではございません。」
「万物を操る才か?」
「はい。俗に言う魔術です。マリナ様は我々、一介の魔法使いには遠く及ばないほど魔術の才に溢れております」
「なぜそんなことがわかる。まだ赤ん坊だぞ」
「わかりますとも。我々には彼女の魔力量が把握できます。通常の人間の100倍以上です」
「それがなぜ貴様らに育てさせねばならなくなる?」
「……実を言いますと、マリナ様は、魔術がなくてはまともに生きていけないのです」
「どう言うことだ!?」
王は立ち上がる。激昂した赤い瞳を血走らせ女を睨みつける。
「人間には生きていくために2種類の力をお持ちです。一つは体力と魔力です。体力というのは自らの力で動くために必要な力です。人はこの力があるおかげで1人で立つことができます。しかしマリナ様にはこの体力がほとんどなく、人に支えてもらわなければまともに立つこともできません。そのかわり、魔力が非常に多くあります。魔力とは体力とは反対に他者に支えてもらう力のことを指します。例えば魔力を使った魔術では自分より階層の低い種族に命令を下すことで空中に浮いていられます。これなら自らが立つ必要がないので体力の少ない人間は生きていくことができます。マリナ様にはこういう、他者に支えられる術を知る必要があるのです。」
「なんと……!だが、貴様らに任せて大丈夫と言うわけではないだろう?」
「……信用されていませんね?」
女は跪いた体制を治して、真っ直ぐに立った。
「当たり前だ。何故なら貴様らに我が娘を任せれば我が国の運命を委ねる、と言うことを指すのだから」
「であれば尚のこと、我々にお任せを。誰よりも強く、賢い素晴らしい人間に育てて見せましょう」
「うーむ……」
ラヴドアールは悩ましい顔を浮かべる
「なぜ、それほど悩まれますか?確かにマリナ様は大切な我が国の姫君です。しかし、その素晴らしい才能を伸ばさず、適切な魔術の使い方がわからなければマリナ様本人の命にも関わりますと、申し上げております」
「……確かになあ。わかった。お主たちに任せる。だが、もしマリナが不幸になるようならば……覚悟しておけ」
「はい。仰せのままに」
そしてその数日後、リヒナは感染症に罹り、亡くなってしまった。悲しみに暮れるラヴドアールは政界に現れることが減り、マリナの姉、リリナが表舞台に立つようになる。
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