冒険者の仲間って、さん付けで呼ばないのおかしくない?

ちびまるフォイ

呼び捨ては親しくなってから

冒険者ギルドの待ち合わせ場所に友達がやってきた。


「久しぶり。世界を救うって冒険に出てから手紙一つよこさなかったのに、どうしたんだよ」


「おりいって相談があるんだ……」


「相談? なにか……あったのか?」


「ああ……」


見たことない深刻なトーンに同窓会のノリは一瞬で引っ込んだ。

真剣モードに切り替える。


「それで、どんな相談なんだ……?」


「ひとつ聞きたい」

「なんでも聞いてくれ」



「パーティの仲間たちをなんて呼んでる?」



「……ん?」


「ギルドで仕事を受けて仲間がパーティに入るだろ。

 で、その戦闘中になんて名前呼んでる?」


「えっと……話が見えないけど、まあ普通に名前で呼んでるよ」


「名前で!? なれなれしすぎない!?」


「ええ!?」


まさかの返答にすっとんきょうな声が出た。


「名前呼ぶのはもっと親しい間柄になってからだろ!

 両家にご挨拶をしてから、ちゃんと健全な仲間としての付き合い方を認めてもらって、その上で名前呼びだろ!」


「その価値観すごいな」


「俺はお前みたいなパリピのウェイ系じゃないんだよ!」


冒険者はギルドの机をバンと叩いた。


「でも、これまで冒険していたんだろ?」


「まあ……」


「今まではなんて呼んでたんだよ」


「……呼んでない」

「えっ?」


「仲間にはなったけど、名前呼びすることに迷ったから呼んでない。

 "そっち行ったぞ!"とかで話して、具体的に名前を呼ばずにここまで来たんだ」


「じ、事務的だなぁ……」


「でも今度ばかりはこれじゃダメなんだ。

 今度の洞窟に待つサンダードラゴンはめっちゃ強敵で、

 ちゃんと仲間に指示出しをしないととても攻略できないんだ」


「なるほどね。それで仲間をどう呼んでいるか聞いたわけだ」


「教えてくれ! どうすれば仲間の名前を呼べるんだ!!」


友達は困った様子で頬をぽりぽりとかいた。


「名前呼びが気恥ずかしいなら、ファーストネームにさん付けでいいんじゃないか」


「それはよそよそしすぎるだろ。これでも俺たちパーティは数ヶ月も苦楽をともに過ごしていたんだ。今更ファーストネームでさん付けはかえって恥ずかしいというか……」


「うーーん……」


名前を呼ぶのは難しい。

でも名字で呼ぶのはよそよそしい。


「ニックネームで呼んでみたら?」


「そんなの相手にとっちゃ不快になるかもしれないだろ!!」


「どんだけ相手の反応におびえてるんだよ……」


その後もギルドであれやこれやとアイデアを出したものの、

どうにも決まらずに冒険者は頭をかかえてしまった。


「ああ、どうすればいいんだ……どうすれば仲間たちを思うまま動かせるんだ……」


答えは見つからないまま冒険者とその友人はギルドを後にした。

数日後、冒険者からまた誘いの手紙が届いたので冒険者はギルドに向かった。


すでに冒険者は待っていて、その顔から上機嫌さが読み取れた。


「よお、あれから洞窟のサンダードラゴンは倒せたのか?」


「ああもうバッチリ倒せたよ! 仲間たちの連携もばっちり取れたんだ!!」


「それはよかった。ついに名前呼びの気恥ずかしさから開放されたんだな」


「いや名前呼びはできなかった」

「え? でも今連携できたって……」


「ふふふ。実はコレを使ったんだ」


「コレって……催眠魔法?」


「そう! どうすれば仲間たちを自分の思うまま動かせるか考えたら、

 催眠で自分の好きなように指示を出して動かすのがいいと思ったんだ!」


「お前のパーティには、賢者もいなかったっけ?

 よくそんな魔法きいたな」


「ああ、生半可な魔法じゃ効かないからめっちゃ練習したんだ。

 熟練の魔道士すらも幻惑させる魔法力をつけるのには苦労したよ」


「そ、そうか……やり方はどうあれ、最終的にドラゴンを倒せてよかったじゃないか」


「そうだな! 仲間との連携ができてなかったらとても倒せない強敵だった!!」


誇らしく語る冒険者を見てふと友人は考えた。






「その催眠魔法って、仲間よりもドラゴンにかけたほうがもっと早く倒せたんじゃね?」



冒険者は催眠をかけて今の言葉を忘れるように指示をした。

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