藤次郎-4

「藤次郎! お前を警護預かりといたす。」


「はっ」


藤次郎は剣の腕を買われ屋敷の警護職に配属となった。幼少のころから剣技の修練を積んでいた。傭兵として実戦の経験もあった。それが少なくとも役に立っていることを理解していた。


「新入りの藤次郎だ。よろしく頼むぞ」


組頭からの皆への紹介もほどほどに早速、屋敷の警備に充てられた。午前は修練、午後は立哨。それを三日交代で昼夜逆転するのだ。


夜に修練は無く、一晩中、数時間置きに交代しながら屋敷の外をグルグルだ。それなりに経験を積むと屋敷の中の警備になる様なのだが。新参者の藤次郎は屋敷の外の担当である。藤次郎が時間以内に戻らなければそれは藤次郎が殺されたことを意味するらしい。


しかし、こんな世の中でもそうそう不審者はいるものでは無い。屋敷とは表現しているが塀が三重に取り囲みそれぞれを堀が取り巻いている。もはやそれは城であり、実際、戦になればある程度の兵と共に籠城まがいの事が出来る仕掛けになっていた。実際の籠城では直ぐ先にある台地の上の山城が本陣になるのだろうが、平時においては十分すぎる守り具合である。


配属されて数日が過ぎたある夜。藤次郎が屋敷の外側を警戒しているというか暇を持てあまして歩いていると、何処からかうめき声が聞こえてきた。


「たすけて~。たすけて~」


藤次郎は夜勤のたびに魑魅魍魎、妖怪譚などを諸先輩方から聞かされ、そんなものは存在しないと確信してはいるのだが実際にその声を聴くとやはり、やっぱりいるのかと考えずにはいられない。事ここにいたって、地獄の底から、いや地獄に行った事は無いが多分こんな感じだろうという感じで人ならざる者の声が聞こえてきている。


頭の上から。

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