陸場 六

「ふ、おかしくなってしまいましたか? 勝てそうにも無くて」


佐伯は再度、右手を上げて四騎に攻撃の指示を出した。


後方で重量物同士がぶつかる音が響く。


その後、続けて鎧が地面に落ちる音がした。


佐伯が音の方に振り向くと仰向けに武者が落ちていた既に首が無い。


「何でですか?」


「何でですか?じゃねぇだろう」


吉右衛門が落ちた武者の代わりに馬に乗ってにやりと笑っていた。


「次、何すると思う?」


と言うと瞬間に馬上から消え失せ


同じように重量物同士がぶつかる音とほどなく、鎧が地面に落ちる音がした。


対面の馬上で同じようににやりと笑っている。

馬の下には同じように首の無い武者が馬から落ちている。


「なぁ、どうした? お前ら俺よりおりこうさんなんだろう?」


口元に笑みを浮かべ獰猛な視線を送っていた吉右衛門は三度消えた。


吉江御門のいた後方から、同じだ、重量物同士がぶつかる音と、ほどなく鎧が地面に落ちる音がする。


「もう終わっちゃうぞ~」


不敵に吉右衛門は笑っている。


「次に何をするか我々はわかっているはずなのに……」


佐伯は焦燥の感を募らせている。


「ああ、お前運が悪かったな。俺は三年も心を読み続けられていたんだぞ。それがどれほどの事かわかるか? ん? 妖怪モドキさんよ。」


その瞬間また、吉右衛門は消えた。


同じ音が響き、隣の馬からまた一人落ちていた。


「手品の種明かしは慎重にした方がいいぞ。

読めねぇよなぁ。ホントに馬鹿な奴らだ。馬鹿ってのはやっぱり、お前のために使うべきなんだろうな。まず敵を調べろよ。

俺は心を無に出来るんだ。もっと言えば、頭で考えている事と別の動作を同時に出来るんだよ!はははは」


獰猛な視線を佐伯に向けたそのままに吉右衛門は高らかに笑い続け、

そして、また消える。


次の瞬間。


今まで会話をしていた佐伯の右わきに現れそのまま蹴落とすと入れ替わる様に馬にまたがっている。


「挨拶は馬を降りてしなさい。俺の相棒がいたら怒られるぞ。おっと、もうこれで挨拶できなくなっちまうから関係ねぇな!」


と言って蹴落とした佐伯の首を奪った薙刀で刺した。


「種明かししてやるよ。靜華に心を読まれない様に色々と遊ばなければならなったあの日々がこんなところで役に立つとは……」


走馬灯だ。走馬灯の様に思い出される。

表情一つから読まれたか?気づかれたか?と、オドオドとしていた日々。


ついた嘘は真実と思いこめ。

やったことはその場で忘れろ。

どんな尋問でも心は真っ白に。


「お前らに分かるか? 術を使って折檻されるんだぞ。雷撃だぞ。当たれば黒焦げなんだぞ。おい。怒らせたら終わりだからな。怒らせない様に先回りだ。おかげで、今では俺は靜華以上に靜華の心なら読めるぞ、参ったか~!! はははっはっはははっは!!」


返事のない死体に話続ける吉右衛門。天女との付き合いは傍で見る以上に大変なのだろう。

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