「みんな久しぶり。こうして見るかぎり、みんな元気そうでなによりだ。内島はいないみたいだが、それ以外、みんな来ているな」



 くるわ先生は、当時の三年四組のメンツをしっかりと覚えているようだった。しかし哲道は、そこに予習の痕跡を感じて、なにやら冷ややかな気持ちを抱いてしまった。


 哲道は、一番後ろの席から、かすみを探した。霞は、窓側の二列目の席に座っていて、隣と後ろには夏希と……あのピアスの女性が着席している。



「いろいろ話したいことがあるかと思うが、まずは、全員、卒業後の簡単な略歴を話すこととしようか」



 郭先生の提案に異議をとなえる者は、いなかった。そして、窓際の一列目の男性が、起立し、略歴を話し始めた。自己陶酔的で、「簡単な略歴」の域を越えていたが、みな、楽しげに聴いていた。


 しかし、このコーナーが終わりに向かうころには、だれしもが飽きていることだろう――だから哲道は、自分の言うことを、あらかじめ考えようとはしなかった。


 次は霞の番だった。当時から人気者だった霞が立ち上がると、同級生みなが、彼女の美貌に目線を投げかけた。



「私は卒業後、○○大学に進んで――」

「有名私立じゃん!」



 霞が話し始めてすぐに、同級生から邪魔が入った。それに霞は、少し動揺したようだった。



「大学を卒業すると、外務省に入りました。それで――」

「うわ! すごい!」



 また、邪魔が入る。霞が密かにため息をついたことに、哲道は気づいた。



「――それで、少し勤務をした後に、大学院に入りました。なんだか、学び足りない気がして」

「へえ、外務省に入ったら、多言語を操らないといけないだろう。何語がしゃべれるんだ?」



 当時からは想像ができない、霞の経歴に対して、郭先生まで質問をはさんだ。



「英語と、フランス語と……ドイツ語です」



 同級生たちは、驚きに一層ざわめいた。しかし、哲道だけは、なにも驚くにあたいするものではないと思っていた。当時、この同級生たちが、いかに彼女の表層をかすめとって付き合いをしていたのかが、あからさまになっているように感じていた。


 哲道の予想通り、この自己紹介コーナーは、終わりに近づくにつれ、だんだんきょうが冷めていった。そして、哲道の番になると、郭先生をのぞいて、熱心に聴いている同級生は、もういなかった。


 哲道は、話しているさなか、ちらりと霞を見た。霞は、夏希にしきりに話しかけられていて、哲道に視線を向けることはないようだった。

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