二号棟の教室Bに入ると、確かにほとんどの同級生が思い思いのグループを作って、談笑にきょうじていた。


 霞は――夏希と、当時も会話を交わしていたのであろう、屈強な身体をした男性……そして、大きな輪っかのピアスをした金髪の女性……と、一緒に話の輪を作っていた。



「霞ちゃんさあ……俺、霞ちゃんのこと、あの時、好きだったんだぜ……それなのに、告白するスキもないんだから」

「そうそう、霞はガードが堅かったよね。告白とかされてたの?」



 夏希の質問に、霞はどこか気落ちしているような表情をした。



「うん……何人かは。だけれど、みんな、どういう顔だったか思い出せないわ」

「霞のこと、男子のほとんどが好きだったよ。だから上級生に嫉妬されちゃって、大変だったわね……女の復讐って怖いもんだから、よく生き延びたよ。ハハハ」



 哲道は、この輪っかのピアスをした女性の名前を思い出せなかった。


 哲道が、教室のドアのところで突っ立っていると、後ろから老齢の男性の声がした。



「お、もしかして中沢か?……なんだ、なんだ、大人びたなあ。まあ、三十を越えれば、自然と大人びるもんだとは思うが、苦労とか、疲労とか、たまっているんじゃないか?」



 その声の主は、やはりくるわ先生だった。黒髪は白髪になり、凜々しかった眼にはまぶたが落ちて、歯の矯正まで終えていた。あの時と変わらないのは、大きな平べったい顔の形くらいだった。



「お久しぶりです。先生には――」



 哲道の言葉が終わらない内に、同級生が郭先生の存在に気づき、それぞれ、温かい声援を、彼に投げかけた。哲道は、また、ひとりぽつねんとするしかなかった。

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