17

 暗い、暗い闇の中。

 光のひとつもなくて、手を伸ばした先すら見えなくて。


 あの時も、睡眠薬が残った頭に、気付け薬の衝撃に頭が混乱して、ふらふらとした足取りの中、シェアトに腕を引かれていた。

 いくつかの荒い息遣いだけ空間を満たしていて、どこか現実感が無かった。


 どうしてそんな辛い顔をしているのか、青い顔で私の方を見るのか、わからなかった。


 怖く、ないよ。


 わかっていたことだから。視たことだから。

 安心させるように告げれば、シェアトはひどい顔をした。


 そして、腕を離すと、


――生きて!!


 光が弾けた気がした。


「星の導きだからって逃げないで!!」


 眩しい位に瞬く光。


「貴方の目は、何も見ていないでしょ!!」


 泣きそうな顔で、見下ろす光は、少しずつ弱くなって、消えた。


 耳障りな雑音が、鼓膜を震わせる。

 動かない体で視線を巡らせれば、床に倒れたシェアトの姿。


 バカな人。


 わかっていたのに。だから、逃がしたのに。

 生きていてほしかったのに。


 そっと目を閉じれば、思い出されるシェアトの言葉。

 なにも見てない。

 このまま閉じたら、シェアトの言う通り、何も見ないのかな?


 そう思ったら、目を閉じていたら負けてしまう気がして、目を開けた。


 そこには、鏡に映った赤黒く染まった自分の姿があった。

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