人魚の涙編
01
精霊には、いくつかの属性があり、それぞれ特性や相性がある。
個人にもその属性はあり、魔術師であれば、それが魔法の特性になり、得手不得手になる。
「ひゃっほぉぉおお!」
例えば人魚は、水の精霊に近い存在で、火の魔法との相性はあまり良くない。
逆に、風や空気といった魔法の相性はいい。
そう、ロクに箒で空を飛べなくても、調子に乗って、空気を圧縮して空高く打ちあがることができるくらいには。
「バカか!?」
どうやら、今回は、
地上では、兄弟であるクリソはもちろん、飛行術の教師ですら、顔を引きつらせていた。
「バカじゃねーし。それより、見たぁ? 俺、すっげー高く飛んでたでしょー? 褒めてぇ褒めてぇ」
しかし、張本人は空中でコーラルの腕の中で、地上からでもよくわかるほど目を輝かせている。
しかも、時々コーラルの腕から離れ、子供が親に楽しかったことを語るように、全身を使って伝えていて、地上にいる全員がいつか落ちるのではないかと肝を冷やしながら見上げていた。
「アレは吹っ飛んでたっていうんだ!」
「ちゃんと箒掴んでたし」
「箒だけ吹っ飛ばして、自由落下で落ちてくるやつを飛んでたとは言わない」
箒の上でバタバタと抗議するアレクに、呆れるコーラル。
しかし、箒は安定感があり、落ちる心配はなさそうだ。
「いいから、さっさと降りてきなさい!!」
ついに、地上から教師の怒号が飛んだ。
メティステラ学院の入学条件は、魔法の才能があること。それ以外は、優秀な成績を収めていればいい。
出自などは、言ってしまえば、あまり必要ない。ことになっている。
事実として、優秀な成績というのが、歴史ある魔術師の家系と直結しやすい部分もあり、貴族たちが多い。
しかし、全くゼロというわけではない。
「――魔法薬のレポートは班ごとに提出すること。人数は6人以下であれば、何人でも構わない。
ただし! 夢物語を提出した班には、特別に実務実習の時間を用意してやる」
ピクリと震える指先。
授業が終わる前から始まる、決まりきったグループ作り。マジョリティには、大変厳しい課題だ。
しかし、噂に寄ると、あの先生の作る試験は難しく、赤点回避のためのレポートらしい。つまり、手抜きは
自分から、動くしか、ない……!!
放課後、その影をじっと見つめ、追いかける。こういう時、話しかけるタイミングはとても重要だ。
「…………何か用か?」
曲がり角を曲がったところで、見上げるほど大きな獣人に見下ろされ、首を絞められた鶏のような声が出た。
「あ゛ー……驚かせて悪かった」
獣人は、ただの魔法の使える一般人よりもマジョリティ的存在だ。特に、貴族な魔術師たちからは嫌われているようで、班を組もうとする生徒はいない。
だから、頼みやすいかと思ったのだが、思った以上に怖かった。
「すみませんすみません……田舎者が調子乗りました……肥溜めの肥料にでもしてください」
「何の話だ? いや、それより本当に何の用なんだよ……」
困ったように頭を掻くダイアに、魔法薬のレポートの班になってくれないかと平謝りで伝える。
「……」
「すみませんすみません。死にます」
「なんでそうなる!?」
沈黙は否定だろう。
「俺でいいなら。むしろ、ありがとうな。誘ってくれて」
少し下がった目尻は、優し気で、実家で飼っていたアポロ(犬)が頭に過る。アレよりずっと大きさと威圧感はあるが。
「――そうか。お前も大変だな」
「ダイア君より、大変ではないと思うけど……」
話してみれば、いい人だ。本当にいい人だった。
「だが、レポートか。確か、Aランク以上の魔法薬の精製方法だったよな」
今回のレポート、ただの魔法薬ではなく『Aランク以上の魔法薬の精製方法』という制約が設けられていた。
魔法薬には、Sランク以下、A~Eまでランクが付けられている。
市販されているものは、C~Eランク。学生が作れるのは、この範囲だろう。
次にBランク。これが作れて、初めて一人前の魔術師と言われているレベル。
それ以上は、作ることも大変だが、材料も貴重で手に入らない物が多い。そのため、実物を見たことがある人も減る。
だからこそ、課題で知識だけでも学んでおけということなのだろう。そして、突飛な方法をレポートで書いたなら、ただでさえ難易度の高い魔法薬を実際に作れと無茶を言われる。
「考えれば考える程、辛くなってくるんですが」
「落ち着け。あくまでレポートだ。作れってわけじゃない」
「じゃあ、ダイア君、魔法薬詳しい!? 私、本とかネットの情報の真偽、見分けられないと思うよ!?」
「自信満々にいうな! ん?」
ふと、ダイアが目をやった先には、クラスメイトのアレクとクリソ、コーラルがいた。
「よぉ。説教は終わったのか?」
「うっせーな。俺、悪くねーし」
今日の飛行術の授業で、大暴走したアレクは、職員室に呼び出され、どうやら今まで説教されていたらしい。不貞腐れたように、コーラルへ抱き着いている。
「一から十まで、お前のせいだと思うけど」
「目ェ腐ってんじゃねぇの。コーラル」
「あら、魚より目に自信はあったのだけど。あぁ、32GB程度の頭じゃ仕方ないわね」
「サイズちげーし。もっと行けるし」
見た目は仲が良さそうなのに、会話は刺々しいドッチボールだ。
「そうだ。よかったら、魔法薬のレポート、一緒にやらないか?」
「ひょ゜っ!?」
「ダメだったか? こいつらなら、詳しそうだったんだが……」
あまりに予想外の事態に、言葉が出てこない。
その動揺具合に、ダイアも慌ててコーラルたちに断りを入れようとしてくれるが、腕を掴み、首を横に振る。
「別に私は構わないけど、そっちの意見は一致させてから持ってきてくれる?」
「デジマ!?」
「……」
「す゛み゛ま゛せ゛ん゛」
絶対零度の視線だった。
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