03
「おかえりぃ~」
部屋に戻れば、ソファに座るアレクの腕の中で毛布に包まり眠るコーラルの姿。
「寝かした」
「そうでしたか。それはよかった」
本来、星祭はアークチスト家総出で行う儀式。
多少、規模が小さくなったとはいえ、人手不足であることは毎年変わらない。
「あれぇ? コーラルに、なんか聞きたいことあったぁ?」
「いえ、急ぎではありませんから」
人差し指を立てて、静かにとジェスチャーをする。
「ん、じゃぁ」
アレクはニタリと笑うと、腕の中のコーラルを毛布ごと抱えると、クリソへ渡した。
「俺、飯作ってくるねぇ」
「はい。お願いします」
足取り軽く、アレクがキッチンに消えていく。
「ん……」
腕の中で、コーラルが少し呻く。少し乱暴に取り扱ったからか、覚醒しかけているらしい。
クリソは、優しく微笑むと、コーラルの耳元へ口元をやり、アレクが先程行ったのと同じように、囁くように歌う。
また深い眠りに落ちていったコーラルをソファに寝かせた。
***
目を開けてすぐ目に入ったクリソ。
眠る前のことは、いまいち覚えていないが、歌が聞こえていた気がする。
「今、何時?」
「10時を回ったところです」
犯人の兄弟であるクリソの膝から体を起こせば、確かに時計は10時を指していた。
「……お前たち、本気で寝かしつけ過ぎ」
「いい夢が見れたでしょう?」
「はいはい。そーね」
確かに、頭が少しだけ冴えている気がする。
相手に許可なく眠らせるところ以外は、人魚の歌で眠るというのは、悪くはない。こちらの準備が整っていないこと以外は。
アレクが作ったスープに口をつけながら、ダイアのことを聞くと、コーラルは少し考えるような仕草をした後、了承した。
「ひとりだろうが、何人だろうが変わらないわよ。むしろ、人手が増えたなら
いいことよ」
「んーでもさぁ、大丈夫なの? 儀式、邪魔されたらダメなんでしょ?」
「それは論外。でも、そこに関してはシトリンたちに任せても――
――お前たち、本当にあいつのこと嫌いね」
儀式には、シトリンたち、ヴェナーティオなどの願い石も関わってくる。それが妨害されるようなことは、明確な規定違反のため、今回の件でシトリンは味方と考えていい。
しかし、心底嫌そうな表情をしたアレクとクリソ。
ヴェナーティオは確かに獣人などの他種族や人を正式に売買しているが、あくまでヴェナーティオ家直属、特にシトリンの管轄では、必要以上の暴行は加えない。
その方が価値が高くなるからだとか、理由は様々あるが、とにかく、売買された恨み程度しかなさそうだが。
「俺らが雑魚って言ってんの?」
「コーラルはただ”やれ”と命令すればいいんですよ」
どうやら違うらしい。
「お前たち、本当にめんどうね……」
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