05
手紙とダイアの話を聞いて、コーラルは軽く頭痛がする気分がした。
「あいつが貴方に協力してほしいって言った理由がよくわかるわ」
そして、無償で一回手を貸すという理由も。
「ね~ぇ~俺、今、こいつらボコボコにしてから聞いてなかったんだけど、手紙、なんて書いてあったの?」
話を聞いている間にも、また新たな襲撃があったのだが、漏れなく双子が返り討ちにしていた。
背中と頭にのしかかる重さに、手を伸ばし頭を撫でておく。
「要は、こいつは人質を取られてて、試験中に助けに来ないと、その人質の命はないってこと」
「なにそれ。お姫様かよ」
「しかし、問題なのはその人質の方なのでは?」
上機嫌に笑うアレクに、冷静に質問してきたのは、クリソ。
その手には、呻いている男。
「ちょうどよかったので、お連れしました。いかがしましょうか。
必要なければ、マナー違反ですが、道端に捨てさせていただきますが」
顔をひきつらせたのはダイアだけで、コーラルはまだ意識のあるらしい生徒ではない男に目をやる。
「監禁場所と警備、依頼主」
「承知いたしました」
にこりと微笑んだクリソは、男の前に屈み、歌うように問いかける。
「教えてください。貴方に襲撃を依頼した方は?」
「――ハートリー」
素直に答えた男に、クリソは続けて、監禁場所と警備についても確認するが、首を傾げただけ。
どうやら依頼主しか知らないらしい。
これ以上、聞きだすことはないと、クリソは容赦なく気絶させると、他の襲撃者と同じように草陰に投げ込む。
「というわけで、ハートリーさん。という方が、今回の襲撃の犯人ということで良いかと。お知合いですか?」
魔術師として有名な家であれば、コーラルが知っている。
今回はまさに当たりだった。めんどくさそうな表情をしている。
「魔術師の中でも、偏屈な奴ら」
ヴェナーティオ家は、やっていることは置いといて、あくまで他種族に対して友好的であり、シトリンが言った通り、獣人などに対しても、人権を認めることに賛成している。
逆に、ハートリー家は、戦争において負けた種族に対して、従属を命じ、獣人を動物と同等の扱いをする魔術師の旗持ちともいえる家だ。
アークチスト家は、中立の立場ではあるが、ハートリー家からすれば、穏健派は皆敵となるため、結果的に対立することはたびたびあった。
「でも、ハートリーが関わってるなら、秘密裏に逃がされた王族が人質と言われても、理解できなくない」
「王族?」
獣人の王族は、全員殺害されたはずだ。
それが、きっかけとなって獣人は、人間に降伏したのだから。
「逃げた王族の存在は知っていたんでしょうね。
それこそ、あの王宮襲撃作戦に関わった魔術師の二大勢力のひとつだもの」
王宮襲撃作戦に関わった魔術師の内、大きな力を持っていたのは、先程から言った通りハートリー家。
そして、もうひとつは、ヴェナーティオ家。
「あいつら、マジで意味わかんねーんだけど」
「意味わからないついでにもうひとつ。
その王族を逃がしたのも、おそらくヴェナーティオ」
コーラル以外の全員が、眉をひそめた。
「あの変態たちは、今はどうでもいい!
今は、早く指定された場所に行って、ハートリーの用意した喜劇でも見に行くわよ」
「勝算はあんのか?」
監禁場所はわからなかったが、こちらにはダイアが受け取った手紙がある。
そこには、十中八九彼らの用意した罠があるだろう。
「何をもって勝利にするかによるけど、その場での戦闘についてなら、必ず」
単純な物理的な戦いで負ける気などしない。
しかし、一番の問題は、
「バーバリィ様の安全は」
囚われている王族の安全。
第一、呼び出された場所に、誘拐した相手を連れてくる必要はない。それだけリスクになりかねない。
「しかし、聞いていればハートリーは素直な方々と見受けられます。
動物に対しては、特に」
コーラルが持つ手紙を奪い、目を通せば、クリソは楽し気に笑う。
「確認しますが、コーラル。
王宮への襲撃を提案したのは、ハートリーでは?」
少しだけ驚いた顔でクリソを見ると、コーラルは小さく笑った。
「同じ轍を踏みたがっているのは、向こうってことね」
「えぇ。この場所も僕らには、お誂え向きです」
「案外ノリ気じゃない。先週までが嘘みたいよ」
「おや、僕らはご主人様の意向には従順ですよ」
見つめ合うふたりの笑みと言葉は、どうにも仲がいいようには見えず、ダイアも喉の奥で唸るだけ。
そんなふたりを、コーラルの頭に顎を乗せたまま見ていたアレクは、顎を放すと、コーラルの肩に手をやり、振り始めた。
「ふたりだけずーるーいー!! おーれーもぉー!!」
「うわ、うわわっ! ちょっやめろ! そこ! 笑ってないで止めろ!」
「すみません。アレク。ちょっとコーラルを独り占めしたくなってしまって」
「クリソはいーけどさぁー! コーラルは混ぜてくれていーじゃん!」
「散々人にのしかかっておいてか! あーっ! もうっ!」
アレクの腕を弾き、振り返れば、アレクを指さす。
「お前は私の傍を離れるな。そして、私を守れ」
「はぁい」
心底嬉しそうに目を細めた。
そして、クリソへ目をやる。
「お前はそこまで分かってるんだ。やることもわかってるな」
「はい。心得ております」
「なら、任せた」
「かしこまりました」
一度、クリソはコーラルへ礼をすると、そのやることのために、森の中に消えていった。
「なんていうか……お前も大変だな」
つい、そんな言葉を漏らしてしまった。
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