2・四年前と二年前


 僕の家族は全員死んだ。


 四年前。

 最初に亡くなったのは父だ。過労死だった。

 死の一カ月前から帰宅が極端に遅くなり、しまいには帰ってこなくなった。母や僕の妹が、冗談交じりに浮気を疑ったりしている中、父は会社で首を吊った。


 情報開示により、会社の業務形態が明らかになる。父に与えられた仕事量は、どう見ても一個人がどうこうできるものではなかった。社屋の監視カメラの映像から業務時間が特定。正式に過労死と認定された。


 父の会社は、弁償として異常なほどの大金を申し出た。

 口止め料というわけだ。


「命を金で買う気か」


 僕は本気で憤った。

 けれど、母はその申し出をやむなく受け入れた。

 父がいなくなった以上、主婦だった母は新たに仕事を探さなければいけない。高校に入ったばかりの僕や、受験を控えた妹の学費をカバーするために、そうするしかなかった。

 そして、感情に任せてその申し出を蹴らせるほど、僕は子供ではなかった。






 二年前。

 次に亡くなったのは母。死因は事故。

 スーパーからの買い物帰り、信号が赤になったのに気がつかず道路の真ん中に躍り出た母は、曲がってきた乗用車にその体を打ち付けられた。


 近所のコンビニの監視カメラや、ドライブレコーダーに映った母は、目の焦点が合っていなかった。父が死んで以降、僕や妹の前で見せていた明るい態度は全て強がりだったのだと、その時に知った。


 ──僕は。

 僕は、母の死が自殺ではなかったと断言することができない。


 そう言った経緯から、乗用車側の過失はほとんど問われなかった。弁護士や保険会社を通したやり取りで、結局はまた、お金による示談で事が済んだ。






 このころ、僕は高校三年、妹は中学三年だった。

 二人の死がもたらした大金で、授業を受け、食事を摂り、思い出の詰まった家に暮らしていた。


 両親の死を生活に変えていた。

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