第0章──転生

1・冬の縁側にて


 静かな冬の初めだった。


 僕は縁側に腰掛けて、ゆっくりと景色を見ていた。

 目の前には雑草の生い茂る小さな庭があって、生け垣を挟んだ裏通りからは道行く人々の足音がする。顔馴染みらしく、「こんにちは」と挨拶する声。遠くの方では、人間を積んだ電車が線路を辿っている。

 物憂げな午後の曇り空は、明るく、冷たい。


 にゃあ、と。

 真白な塊が隣で声をあげた。


 飼い猫のシロツキが僕の太腿に前足をかける。

 頭を撫でてやると、そいつは僕の足の上に座り込み、占領した。

 寒いのだろう。

 そういえば、今年はまだコタツを出していないから。



 ──コタツを出す人間が、もういないから。



 僕はシロツキの温もりにすがった。

 確かな暖かさと、生き物の柔らかさに触れて、ほんの小さな安堵を噛み締める。

 シロツキは嫌がるそぶりも見せず、僕に撫でられるままだった。いつも通り、おとなしかった。


「ありがとう、シロツキ」


 声をかければ、深海の色をした小さな目がこちらを見つめる。

 その両目が、ゆっくりと閉じ、再び開いた。


「部屋に戻ろうか。冷えてきたから」


 言葉を理解したかの如く、シロツキは短く鳴いて僕の足から退いた。

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